中野香織 第2回「島地も騙された英国の英雄・ホレーショ・ホーンブロワーを知ってますか」

島地 勝彦 プロフィール

中野 本当ですか?

シマジ 美しい教授にそう言われると、にわかに自信がなくなってきました。

中野 でも、そうだとしたらいい話ですね。

シマジ ネルソン・タッチってご存じでしょう。

中野 いいえ、知りません。

シマジ ネルソンの得意の戦術で、接近戦で決定的な打撃を与えるものなのです。ナイル会戦のとき、ナポレオンが艦隊を残してエジプトに上陸したあと、フランス艦隊はいつ英国海軍が攻めてきてもいいように、大砲を外海に向けて待ちかまえていたんです。

 ところが、ネルソンは裏をかいてその裏側にまわり込んだ。大砲が向いてない側からフランス艦隊に接近し、大砲をぶっ放して殴り込み、大勝利を収めたんです。「これは勝利なんて生やさしい言葉では表わせない。それはまさに征服だ」とネルソンは豪語している。その当時からネルソン・タッチは怖がられていたものです。

中野 シマジ・タッチも怖そうですね。

シマジ いやいや、シマジ・タッチよりタツキ・タッチのほうがもっと怖いでしょう。

立木 おれはもう錆び付いているから、話題にしないでよ。

シマジ その不死身のネルソンがトラファルガー会戦で戦死するんですが、その最後は凄絶そのもの。ロバート・サージの「ネルソン提督伝」に詳しいですが、ついに死の弾丸がネルソンの左肩の肩章に命中して背骨を貫通したとき、ハーディ艦長が駆け寄りネルソンを抱き上げた。「ついにやってくれたよ。ハーディ、もうおしまいだ」と漏らし、死が近づいているのにネルソン提督は平常心を失うことはなかったそうです。

 階下に運ばれてるとき、ネルソンは自分のハンカチで自分の顔と勲章を覆った。名誉を重んじたんでしょう。「愛しいレディ・ハミルトンにわたしの髪の毛と全所持品を渡してくれ」。そして最後に「海葬にしないでくれ」と頼んでいます。両親のそばに葬ってもらいたかったのでしょうね。

 トラファルガー会戦で戦死したネルソンために国葬が行なわれた。その長蛇の葬列なかに並んでいたのが、われらが海軍士官候補生、ホレーショ・ホーンブロワーだったんです。この海の男は、はじめ船酔いに悩まされるんですが、ネルソンを夢にみて提督まで昇り詰めるんです。ネルソンのフルネームは、サー・ホレーショ・ネルソンです。