中野香織 第1回「ダンディズムを究める美人学者、登場」

島地 勝彦 プロフィール

瀬尾 はい、はい。

 「わが尊敬して止まない歴史上の人物にダンディズムの父、ボー・ブランメルがいる。彼の銅像はいまもロンドンのダンヒル本店の向かいに立っている。正式名、ジョージ・ブライアン・ブランメル。

 祖父は下僕だったらしいが、ノース卿に仕えた父の代で財を成し、平民の身分でありながらでイートン校、オックスフォード大学に学んだ。その伊達男ぶりは、「今日、ブランメルがどんな服装でロンドンの街を歩いたか」が、何とタイムズ紙の記事になるほどだった。あまりに美しく格好よかったので、人はボー<洒落た>ブランメルと呼んだ。洒落者のブランメルは女に大いにモテたが、結婚しようとはせず、一生を独身で通した。

 ご多分にもれず、無類の浪費家でギャンブラーだった。上流貴族の集まるウォーティア・クラブで、終身会長に選ばれるほどの人望があった。そのクラブで1812年、ナポレオンがいつエルバ島からパリに戻るかという賭けをし、大金をせしめて有名を馳せた。2年後、今度はナポレオンがセント・ヘレナ島で6週間以内に死ぬことに賭け、またもや大金を得た。ジョセフィーヌと離別して結婚した第2の妻、マリー・ルイーズが1年以内に再婚することに賭け、これまた大勝してますます賭博師として名をあげた。

 日ごろのブランメルはポーカーに興じた。一晩でいまの日本の金にして3000万円も稼いだこともある。そんな噂がヨーロッパ中に広まるにつれ、ロシアやプロイセンの将校たちが向こう見ずにブライアンに高額の勝負を挑んできたが、いつも彼は物静かに軽いアクビをしながら受けてたった。

 とある日、プロイセンの将校とポーカーに興じて真夜中を過ぎた。ボー・ブランメルは静かに言った。

『どうやらこの大勝負はわたしの完敗だ。これだけの大金の手持ちがないので、この屋敷を差し上げよう。その代わり、今夜は君の屋敷のベッドで寝かせてくれないか』

『どうぞ、どうぞ』と、プロイセンの将校は冗談だと思って返事をした。翌朝、将校が遅く目を覚ましてブランメルを探したが、どこにも姿がない。召使いに尋ねると『ブランメル様は早朝、船に乗ってノルマンディに旅立ちました』という返事だった。そして彼は生涯2度とロンドンに帰ってこなかった。かのバイロン卿曰く。ナポレオンになるより、ブランメルになりたい」

立木 瀬尾、朗読がうまくなってきたじゃないか。

瀬尾 有り難う御座います。これもシマジさんのお陰です。

中野 ボー・ブランメルはカレーに逃亡したけど、晩年は落魄していまう。ダンディズムを貫く男性はみんな晩年は不幸のどん底に落ちますね。フランスのバルベイ・ドールヴェイもそうです。

シマジ ああ、あのブランメルの応援団長で猫たちに看取られながら死んだ男ですね。

ABJ mark

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標 (登録番号 第6091713号) です。 ABJマークについて、詳しくはこちらを御覧ください。https://aebs.or.jp/