昨年末、本コラムでご紹介した米SOPA法案だが、今年に入りネット百科事典ウィキペディアのストライキが注目を浴びて、ようやく日本のメディアでも報道されるようになった。早速、日本の主要メディアを回って、ニュースや解説記事を読ませていただいたが、その内容は同問題を"対岸の火事"と見ており、日本への悪影響を言及しているものはない。そうしたニュースの補足を含めて、SOPA問題の現状をもう一度整理してみたい。
詳しくは前回(2011年12月24日)のレポートを読んで欲しいが、SOPA法案の要点をまず整理しよう。
映画やテレビ番組を制作するハリウッドは、海賊版のネット流通に長年悩まされ、過去数年に渡って米連邦議会に取締法の成立を働きかけてきた。今回は抜本的な防止策として、司法省による海外サイトを含む捜査権やドメイン・ネーム・サーバーからの削除など強固な内容を盛り込んだSOPA(Stop Online Piracy Act、H.R.3261)法案が連邦議会下院で審議されている。同様に、上院ではPIPA(PROTECT IP、S.968)法案が上程され、審議が進んでいる。
SOPA法案で問題となっているのは、
1)裁判所の許可を得て、米国司法省は海外にある違法コピーサイトの捜査をすることができる
2)裁判所の許可を得て、米司法長官はISPや広告ネット、決済機関に対し、違法サイトとの取引停止を命令できる
3)違法サイトを排除するため、ドメイン・サーバーへの干渉を認める
という3点に集約される。米国外の違法サイトに対して司法省が捜査をおこなうことは、法的な越境行為を伴い大きな問題を含む。
たとえば、日本にあるウェブサイトに対し「違法コピーの配布をおこなっている」と米司法省が判断し、同サイトのアドレスをドメイン・ネームサーバーから削除し、取引銀行(米国で営業している邦銀、決済事業者などを含む)に対して取引停止を強制することもできる。この場合、日本のウェブサイト運営者は、米国において裁判を起こし、その正当性を争うことになる。
もし、SOPAによる誤認事件が発生した場合、その被害は米国だけでなく世界中のインターネット・ユーザーに広がることになる。
ドメイン・ネーム・サーバーとは、電話でいえば電話番号にあたる。そのため、削除された場合、事実上、インターネットによるアクセスができなくなる。
従来、猥褻コンテンツや違法コピーなどに対して、インターネット・プロバイダーや通信事業者が自主的にフィルターを掛けてアクセスを制限することは事実上認められてきた。その場合、ユーザーが同制限に納得できなければ、プロバイダーを変更するという選択の余地がある。
一方、SOPAではドメイン・ネームの削除や取引の停止という法的な強制をすべてのプロバイダーに科すため、ユーザーは選択の余地がない。しかも、その影響は日本も含め世界中におよぶ。