前篇はこちらをご覧ください。
●東レ、旭硝子、日清食品HDが高得点。
旭化成、味の素、セコム、キッコーマン、新日鉄、王子製紙も高得点
●テレビ局、広告、新聞、医薬品、セメント、ホテル、ゲームは苦戦
●ベネッセHD、帝人、大日本印刷など、斜陽産業から転進組に光が
10年後に絶対に生き残っている会社はどこか---本誌は識者に日本の有力企業627社の中から「10年後も絶対に生き残っている会社」「努力すれば生き残っている会社」それぞれに◎、○をつけてもらう大調査を実施、前篇(1月7・14日合併号)で311社分の結果を公表した。
日本を代表する大手自動車、電機メーカーでさえ○がほとんどつかない会社が続出し、証券、生損保、海運、空運なども大苦戦。就職人気ランキング常連のパナソニック、ソニー、ANA(全日本空輸)などに○が少なかった一方で、ユニ・チャーム、日本電産、ファナックなど大学生にはあまり馴染みのない企業が上位を占めた。
今回も文系大学生に人気の高いテレビ、新聞、広告業界、理系大学生が多く志望する医薬品業界などが苦戦。上武大学教授の田中秀臣氏は「TPPによって規制緩和を求められる業界は厳しい」と指摘する。
「新聞・テレビは記者クラブ制度、クロスオーナーシップ(一つの資本が多くのメディアを傘下に持つこと)などの既得権益を失い、海外勢の進出に耐え切れない。医薬品業界やドラッグストア業界にしても米国が自国企業の販路拡大を狙って市場の開放を迫ってくるので、規模に劣る日本企業はほとんど生き残れない。M&Aを仕掛けられて消えている可能性もある」
2011年は超円高を受けて日本企業の海外進出が加速したが、新興国での競争は熾烈で、韓国メーカーや欧米勢からパイを奪うにはいたっていない。そこへきて国内で独占してきた売り上げも海外陣営に侵食される事態となれば、企業の大縮小が猛スピードで進むこととなる。ピナクル代表の安田育生氏はこう語る。
「これから10年は日本を基盤にして海外に打って出る『多国籍化』は当然のことだが、たとえば日本板硝子が世界最大級のガラスメーカー『ピルキントン』を傘下におさめ、役員も半数が外国人になっているように、物心両面での国際化、つまりは『無国籍化』していくぐらいの覚悟が必要になるだろう」
では10年後も生き生きと輝いている企業はどこなのか。今回、最も高得点をあげたのは東レ、旭硝子、これに日清食品HD、味の素、旭化成、セコムなどが続く。「共通点がある」と言うのは小樽商科大学大学院准教授の保田隆明氏。
「10~20年前には斜陽産業だったが、業界転換に成功した企業は強い。たとえば斜陽産業の典型例と言われた繊維業界では、東レがいち早く炭素繊維市場に目をつけ開発、いまでは航空機、自動車、発電所からゴルフ用品、釣り具にまで使われる巨大市場で世界トップシェアを保持している。医療分野に進出した帝人も転換の成功事例だ。
同じようにガラス業界では旭硝子が住宅や自動車向けだけにとどまらず、液晶パネル用ガラス基板や半導体レンズ材などに使われる特殊ガラスのシェアを伸ばしている。大日本印刷や凸版印刷なども、印刷技術を応用してエレクトロニクス分野に進出、液晶フィルター分野で世界トップクラスにまで登りつめた」
証券アナリストの植木靖男氏は「特に『製品を作るための製品』は強い」と付け加える。
「たとえば信越化学工業は塩化ビニル、半導体シリコンウェアで世界トップシェアを持つが、これらの製品は様々な完成品を作るのに必須の製品だから、需要が底堅い。三菱ケミカルHDも医薬品やリチウム電池など幅広い事業を展開している。彼らが完成品メーカーに代わって、10年後の主役になっている可能性が高い」
変化への対応力はいずれの識者も指摘する「生き残りのポイント」だ。流通科学大学学長の石井淳蔵氏は転換のキーワードに「ソフト化」を挙げる。
「ソフト化とはつまり、経営の軽量化。自社で営業、研究所、工場などを持たず、マーケティングや企画をビジネスの主眼に置いている企業は機動性に優れる。これを実践しているのがP&Gやナイキなどのアメリカ企業で、20%以上の高い利益率を稼ぎ出している。日本企業は良くても4~5%なのとは対照的だ。
日本勢では任天堂が厳しいゲーム業界の中で少数精鋭のビジネスモデルを作り成功。リクルートやベネッセは硬直的なピラミッド型組織から離れ、『いつ出ていっても構わない』という人材育成をしており、これで優秀な人材を大量に呼び込んでいるからすごい」
表中にはないが製薬業界の小林製薬、センサー事業などのキーエンスも軽量経営で独自のポジションを確保する優秀企業だという。
「企業名と本業がかけ離れている企業は総じて強い」と言うセゾン投信代表取締役の中野晴啓氏は、高評価企業にさらに別の共通点を見出し、「10年後は21世紀型の不安ビジネスが台頭する」と言い切る。
「新興国やアフリカの人口がまだ増加を続ける中で、10年後は食料・水不足が深刻化する。国内では一人暮らしのお年寄りが増え、社会不安も増大する。ここに商機を見出してすでに動き出している企業は、10年後にたわわに実った果実を収穫するタイミングに入る。
海水を淡水に変える逆浸透膜技術に優れる東レ、食の安全が求められる中で圧倒的な信頼感とブランド力を持つ日清食品HDや味の素、山崎製パン、古くからの顧客である富裕層情報を握りながら、その顧客網を生かして健康・医療、保険などに多角化を進めているセコムなどは不安ビジネスの筆頭格となる」
一方でかつての「花形」だった鉄鋼、セメント、石油業界などは評価が低い。いずれも大規模なコストを投じて巨大な設備をどれだけ作れるかが生き残りのポイントになる業界だが、日本勢は企業数が多すぎることがネックになっている。
「鉄鋼業界が象徴的で世界最大手のアルセロール・ミタルが合併を繰り返して拡大路線をひた走る中で、世界で戦えるのは新日鉄くらい。セメント、石油業界は内需に依存しているため、人口減少がさらに経営を圧迫する」(百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏)
そうした中で意外としぶといとされるのが実は水産業界で、信州大学経済学部の真壁昭夫教授によれば「海外には巨大水産会社が少なく、日本勢は相対的に規模の大きさを維持。新興国の貧困層を中心に冷蔵庫の普及が進めば冷凍食品の需要も増える。特に日本水産は有望だ」という。
少子高齢化・人口減少、財政破綻、TPPの開始、消費税増税、中国・インドという二大経済大国の隆盛・・・・・・。これから10年で日本経済を取り巻く環境は激変する。どんな企業も転換を余儀なくされ、それに成功した者だけが世界を舞台に活躍できることになる。混迷の時代を生き抜く企業の条件を、一橋大学大学院教授の楠木建氏はこう語る。
「経営の本質は独自性。ミクシィがなくなってもフェイスブックがあればいい、JTBグループがなくなっても近畿日本ツーリストがあればいいなどと思われてはいけない。会社がなくなったら涙を流してもらえる顧客をたくさん持っている企業が、これからの時代は際立ってくる。顧客にとってどれだけかけがえのない存在になれるか。生き残りの生命線はこの単純なことにある」
原点に帰りながらも大胆に舵を切る勇気が、経営者には求められている(各企業・業界の詳しい評価については、表の寸評欄をご覧下さい)。
「週刊現代」2012年1月21日号より