オヤジ伝説検証隊「自由雲」のオヤジ伝説

「金婚式はとっくに過ぎてますよ」と、平野重太郎さんと俊子さん夫妻
「自由雲」のオヤジ伝説
「マスターがもうすぐ90歳のおじいちゃん」「店は創業半世紀以上」「マスターは元ベースマンでNHK紅白歌合戦に出場経験がある」「越路吹雪、力道山、美空ひばりなどと親交があった」

米寿を超えた元気なマスターの過去

 米寿を超えたマスターがいる天然記念物みたいなバーがあると聞き、ライター肥田木奈々と編集Yさんが調査を開始。平日夜、池上駅に降り立った。本門寺通り商店会にひっそりと佇む店は、年季の入った石造りの外観だ。

編集Y(以下Y)「シ、シブい」

 本当に営業してるの? 思い切ってドアを開ける。

肥田木(以下肥)「こんばんは」

 シーン。カウンターだけの店内は昭和の雰囲気が漂う。誰も見当たらず、聞こえるのはテレビの音だけ。もう一度叫ぶ。

肥「こんばんはっ~!」

 シーン。おそるおそるのぞき込むと、コの字型カウンター席の隅でテレビに見入っている後ろ姿が見えた。店に入り、肩を軽く叩くと、やっと振り返ってくれた。

マスター(以下マ)「おおっと、いらっしゃいませ」

ピザ(800円)は、サラミやベーコンのほかタマネギなどの野菜をみじん切りにしてじっくり煮込んだトマトソースが味の決め手。生地も手作りだ

 マスターは、お歳を召されてはいるがバンダナを巻いた粋なお姿。温厚な笑顔で迎えてくれた。席に落ち着き、メニューを見る。

Y「ハイボールが300円!」

肥「安い! マスター、つまみは何がおすすめですか?」

マ「うちはピザが名物。ソースも生地も私の手作りなんですよ」

 登場したピザ(800円)は、ふっくらした生地に野菜などを煮込んだソースがたっぷり。たしかにこれは旨い!

マ「ね、美味しいでしょう。生姜やニンニク、タマネギなどいろいろな素材を刻んで入れたソースなんです。他の料理も私が研究して考えたものなんですよ」

 ふと店内を見渡すと、バンドマンが数人写ったモノクロ写真が。

マ「実は私も写ってるんです。浜口庫之助って知ってます?」

Y「『黄色いさくらんぼ』『バラが咲いた』とか、数々のヒット曲を生み出した人ですよね」

 マスターは、その作曲家の浜口さんと「アフロクバーノ」というバンドを結成するなど、華やかな舞台で活動したベースマン。

マ「いろいろな歌手とステージを共にしてね」

 マスターはゆっくりとハイボールを作りながら話を続けた。挙がってきた名前は、越路吹雪、朝丘雪路、力道山、美空ひばり……そうそうたる大物。ここでは書けないような芸能界のアブナイ裏話も飛び出し、あまりの面白さにミーハーな私たちの瞳はキラッキラ。ハイボールが、進む進む。

マ「実は妻は日劇ダンシングチーム出身。たまに店に出ますよ」

 ていうか、マスター夫妻って、いったい、おいくつ?

マ「私はもうすぐ90。妻は8歳ほど下かな」

 ということは二人とも80代。ぜひ奥様にもお会いしたい。後日、改めて取材を申し込んで訪れた。

 自由雲(じゅん)は創業54年。マスターの平野重太郎さん(89歳)は戦後まもなくハワイアンバンドなどを組み、ベースマンとして日劇などのステージで活動。昭和28年ごろに浜口庫之助とバンドを結成した。NHK紅白歌合戦にも出場したことがある。妻の俊子さん(81歳)は、元日劇ダンシングチームの出身だ。

―バンド時代は、どんな歌手と共演しましたか?

重太郎さん(以下重)「越路吹雪さんが多いかな。彼女が出るとステージが引き締まったね。仕事で一緒に大阪に行ったときは、夜行列車で朝着いて、すぐに美味しいステーキ屋に連れていってもらったりしましたよ。」

―力道山もご存じなんですか?

重「力道山は白いオープンカーに美空ひばりさんを乗せて、銀座のナイトクラブによく遊びに来ていました。我々の伴奏でひばりさんがジャズを歌うんです。彼女の歌は最高だった。浜口が〝力道山マンボー〟なんてオリジナル曲を作っていて、力道山が来ると、この曲で盛り上げたりしてね」

―俊子さんは、元日劇ダンシングチームで活躍されたとか?

俊子さん(以下俊)「7年ほど毎日ステージに出ていました。まだ9歳ぐらいのひばりちゃんが、楽屋に遊びに来たりしてましたよ」

―店はいつごろから?

重「ステージ仕事と並行して昭和31年頃に始めました」

俊「最初はバーテンダーもいて、私も店に出てました。最近は、たまに来るぐらいですね」

―100歳まであと少しですね。いつまでも続けてほしいです。

重「店はもうすぐ創業55年。まだまだ頑張りますよ」

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら