対談 岩瀬大輔×坪田知己〔後編〕
前編はこちらをご覧ください。
岩瀬 どんなに出版社が頑張っても、大きな流れには抵抗できません。今回、「生命保険のカラクリ」をネット上で無料公開することについては、出版社の方は複雑な思いを抱えているようでした。しかし、これは「いい・悪い」ではなくて、「いつ・どのタイミング」でやるかというだけのことではないかとお話をしました。
とはいえ、やってみてどのような反響があるのか、どんな流れになるかはまだ判りません。ほかの著者の方々もそうしたら、新書全体、ビジネス書全体、またはフィクション全体がどうなるのかもわかりません。坪田さんは、書籍、出版の将来についてどうお考えですか。
坪田 今は、アテンション・エコノミーの時代なんです。全体の中からどう注目されるかが大事です。かつて、田舎道しかなかった時代は多少不便でもみんながそこを通ったでしょう。しかし、100車線もあるようなバイパスが近くにできているのに、古い田舎道を大事にしようと固執しているのが、今の出版社であって新聞社です。
しかし今はもう、バイパスが開通しているんですから、新しいビジネスを考えなくてはいけません。
岩瀬 新しいビジネスモデルが必要ですね。
坪田 その新しいビジネスのヒントはすでにあります。たとえば今日、私は岩瀬さんにお目にかかって、岩瀬さんがどんな方なのかがよくわかった。その岩瀬さんから「この本は面白いですよ」と勧められたら、読みます。実は私は、ミクシィやメールで勧められた本を読むことがとても増えています。
かつては新聞の書評欄で面白そうな本を探していましたが、今はネット経由で勧められて読む本が、全体の半分くらいを占めています。「この人の今回の本は前回のあれより面白かった」と比較をしたり、「具体的にここが良かった」と抜き書きをしてまで教えてくれる人がいるんですね。
岩瀬 それは、おいしいお店を探すときに感じます。匿名の人が投票しているレストラン評価サイトを見るより、信頼する人に教えてもらった方がいいですからね。本で言えば、書評ブロガーに献本が集中するのも同じことなのかも知れませんね。
坪田 そうです。しかし、例えば書評をするにしても、引用のための抜き書きを、その人がする必要はあるでしょうか。どこかにアーカイブがあれば、リンクを張って飛べるようにしておけばいいわけです。アーカイブの重要性は、ニュースにおいても感じています。私が長年勤めた新聞社などが扱うニュースは、できるだけ早く伝えることが大前提です。そしてそれを、ネット上でも朝夕刊のように、アーカイブ的にまとめるというのがこれからのひとつの姿だと思います。
岩瀬 そこで気になるのが、ニュースはどうやってアテンションをとっていくのかということです。これはテレビでも同じかも知れませんが、一部のサイトでは、センセーショナルな見出しをつけて、ジャーナリスティック的見地からは価値のない、面白いだけの情報でアテンションを奪おうとしています。