内田樹「呪いの時代に」~異常なまでに攻撃的な人が増えていませんか

他人を誹謗中傷する人、憎悪と嫉妬を撒き散らす人
週刊現代 プロフィール

他者を傷つける快感

朝日新聞の「ロストジェネレーション」も、それぞれ自分の身体や生活を持っている人々を、前述のように「強欲で無能な中高年」という記号にして、彼らへの憎しみを煽った。暴力性の桁は違いますが、これもアメリカの「イスラムのテロリスト」に対する憎悪と本質的に同型のものです。記号として扱われ、顔を持たない人間たちに対して、人間はいくらでも残酷になれます。

 

呪いは強烈な破壊力を持っています。だから、呪いを発した人間は強い全能感を覚えます。呪いに人々が惹きつけられるのは、破壊することの方が、創造することよりもはるかに簡単だからです。

破壊する立場にある限り、どれほど社会的に非力な人間であっても、劇的な効果を経験できます。自分の手で人々が大切にしてきたもの、敬意を抱いたり、愛着を持っていたものを叩き壊すことができる。それは強烈な快楽をもたらします。

破壊する側にいさえすれば、どんな上位の相手とでも五分に渡り合えます。いや、五分以上の優位に立てる。自分よりはるかに年長で、社会的地位もある人間を傷つけることができる。この全能感に、若者たちはたやすく嗜癖(特定の行動や物質に過度に依存すること)してしまいます。

一度、呪いの言葉を吐きかけて、それによって他人が生命力を失い、あるいは営々として築かれてきた制度が瓦解するのを見たら、人間はもうその全能感から逃れられなくなる。その快楽なしではいられなくなってしまうのです。麻薬のようなものです。

麻薬中毒者がより強い刺激とより多くの投与量を欲するようになるのと同じく、呪いを吐く人々も、その言葉をいっそう激烈なものにしてゆくようになります。症状がさらに進むと、攻撃したり、破壊したりする必要がどこにあるのか誰も理解できないものに対してさえ、「誰かがそれを大切にしている」という理由だけで標的にして、唾を吐きかけ、踏みにじらずにはいられなくなる。

呪いを発する人間の末路は、だから麻薬中毒者と同じように哀れです。攻撃的な言葉は相手の生きる気力を奪うだけでなく、それ以上に、自分の生命力も傷つけるからです。他人への呪いというのは、自分にも必ずはね返る。

編集部からのお知らせ!