被災者が被災者を襲う国---。海外メディアは日本人の礼儀正しさを賞賛したが、いま全国の法廷で、震災に便乗した犯罪の裁判が行われている。法廷で語られた「犯罪」から見えてきたのは---。
取材・文/司法ジャーナリスト 長嶺超輝
大震災の発生から間もない3月下旬の夜。20~25歳の若い男6人組が部屋に集まっていた。ゲームやDVDなどを楽しんだりしてグダグダ過ごしているうち、そのうちの1人が「被災地で盗みをしているやつがいるらしい。余裕で盗めるんじゃないスか」「行くんなら行かないスか」と言い出した。
深夜3時。明かりが全く無い仙台市若林区の沿岸部に到着した6人は、懐中電灯を手に持ち、津波に遭っても辛うじて建っている2階建ての住宅に侵入。現金1万2000円のほか、液晶テレビ、スノーボード、『ワンピース』『スラムダンク』といった人気漫画など、中古品として転売しやすいものを狙って計約7万円相当の品々を盗んだのである。
1階は完全に海水をかぶって使えなくなっており、住人たちはやむを得ず避難所生活を送っていた。残った家財道具をなんとか守りきろうと、主は週に何度か自宅へ戻り、扉や窓ガラスを喪失した壁の隙間に、ベニヤ板を釘で打ちつけて補強していた。
被告人らはそのベニヤを引き剥がし、土足で踏みこんだのである。本件の被害者はわずか3週間足らずの間に、二重の苦しみを味わわされたことになる。
犯人らの乗っていたクルマは、途中で警戒中のパトカーとすれ違っており、証拠隠滅のため、盗んだ品物のほとんどを車窓から投げ捨てた。まるでテレビゲーム感覚の犯行。
このうち、一番の年長者である男が住んでいた実家も、3月11日、津波で全壊していた。それをきっかけに家族はバラバラになり、彼は一人暮らしを始めていた。
検察官から「だったらあなたが一番、被害者の気持ちがわかるんじゃないですか。一番年上なんだから、窃盗を止められた立場でしょう」と責められた男は、「正直、被害者のことは考えられなかった。一人暮らしの部屋に液晶テレビがあればいいという気持ちがあった。申し訳ないと思う」と答えるだけだった。
大震災を克服するため、被災者同士で助け合い、日本中、そして海外からも様々な支援が集まった。しかし、被災者が被災者を襲うような犯罪は、確かに起きていた。それが被災地の現実だ。
「信じられないほど巨大な自然災害に遭ったのに、略奪犯罪ひとつ起きていない」
「他人と協力し合いながら、柔軟に危機を乗り切ろうとする態度は素晴らしい」
海外の各メディアは、日本人の震災対応を手放しに称え、惜しみない賛辞を送ってくれた。こうした指摘は大きく間違っているわけではないが、実は日本でも被災地を舞台にした犯罪は数多く起きていた。
そうした被災者を食い物にする「陰湿な犯罪」の実態について、少しでも法廷で知るために、私は東北地方の裁判所へ足を運ぶことに決めた。仙台市だけでも、震災以降に9回訪れている。