イタリア国債・ギリシャ国債は紙クズに日本国内のイタリア国債保有額は5兆7000億円三菱UFJFGと日本生命が大量に保有これがその詳細リストだ
本誌は日本を代表する金融機関が、今後問題化するとされるイタリアをはじめとする欧州5ヵ国向けに、どれだけの投融資残高があるのか、聞き取り調査をした。欧州危機は他人事でないことが分かる。
湖面に落とした小石が波紋を広げ、湖岸に大波が押し寄せる。ギリシャというヨーロッパの一隅にある国の危機が一石となり、次々に大きな波紋を広げている。遠く日本の金融機関も例外ではない。
まずは右の表を見て欲しい。これが欧州の金融機関の、偽らざる実態だ。
欧州の主要な金融機関がどれくらいPIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)の国債(地方債など含む)を持っているかを克明に示している(資本に対しての割合で表示)。
この数字が高ければ高いほど、「爆弾」を抱えているということになる。10月に破綻したフランス・ベルギー系銀行のデクシアが211%。早々と破綻した理由がよくわかる。それ以外にも、100%オーバー、つまり資本を上回る額のPIIGS国債を保有する金融機関がゴロゴロある。名の知れた大手金融も20%以上保有しており、欧州の「国債ショック」が起きれば、丸呑みされるシナリオが透けて見える。
さらに、いま金融関係者の間で欧州金融機関が作成した「恐怖の試算レポート」が出回り、注目を集めている。PIIGSの国債が市場の実態に合わせて〝棒引き〟された場合、欧州の主要金融機関がどれほどの資本不足に陥るかを計算したものだ(右表)。
先ごろのG20で「国際金融システム上重要な金融機関(G-SIFIs)」として指定されたBNPパリバ、ソシエテ・ジェネラル、コメルツ銀行、ドイツ銀行、クレディ・アグリコル、ウニクレディト、INGなど、そうそうたるメンバーが軒並み2000億円超の資本不足に陥ることがわかる。インテサ・サンパオロなども日本では馴染みのない名前かもしれないが、世界のトップ30金融機関(総資産規模ベース)に入る超大手である。
次に日本の金融機関の実態も明らかにしよう。
テレビや新聞は「日本の銀行はギリシャ国債をほとんど持っていないから安全」と嘯くが、本誌が主要金融機関12社に対して行った調査(次ページ表)で、大量のイタリア国債を保有、イタリア企業向け融資も行っていることがわかった。
突出しているのは三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)。イタリア国債を約2700億円保有、インフラ企業向けの融資などを行っており、イタリア向け投融資の総額は5520億円もあった。これは同社の直近の当期利益に匹敵する額だ。
三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)も大企業向け、プロジェクトファイナンスにカネを出しており、同投融資総額が約2320億円。メガバンク3行はいずれも1000億円オーバーのカネをイタリアにつぎ込んでいた。
日本の金融機関がすでに出血し始めているという事実も見逃せない。ギリシャ・ショックを受けて世界中が超株安に落ち込んでいることで、日本の大手銀行は保有する株式の評価損が出る見通しなのだ。
大手シンクタンクのエコノミストが言う。
「大和証券キャピタル・マーケッツのレポートで、9月期末までの半年で大手銀行の保有株式評価損益が1兆円弱の幅で悪化したと試算されている。評価損が大きいと推定されているのが、みずほ銀行の750億円、三菱東京UFJ銀行の1300億円、三井住友トラスト・ホールディングスの600億円。レポートに『財務体力が悪化したことは否定出来ない』とあるように、やり過ごせるような額ではない」
すでに株価下落で決算をやられた金融機関もある。
第一生命は株式相場の下落を受けて約850億円の有価証券評価損を計上、2011年9月中間連結決算を下方修正したのだ。さらに大手損保グループのNKSJ(損保ジャパンと日本興亜損保の持株会社)も650億円ほど、MS&ADインシュアランスグループHD(傘下に三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保など)も約530億円の有価証券評価損を計上し、ともに決算を下方修正。NKSJにいたっては最終損益が300億円規模の赤字予想に転落した。
大手損保OBの話。
「多くの人は忘れていると思うが、リーマン・ショック後の株安を受けて中堅生保の大和生命が破綻している。当時の住友信託銀行もリーマン破綻から1ヵ月も経たないうちに、中間決算で純利益が約30%も激減するとの見通しを発表していた。その主因も100億円近くの株式の減損処理だった。株価下落は経営を直撃する、なめてはいけない」