大金を費やさずとも~福島県PR作戦の快進撃 vol.2

「コピペ文化」を逆手にとって

 福島県事務所が観光誘致活動を行うにあたって徹底的にこだわったのは、「魅力的なプレスキット」を作ることだった。

 プレスリリースには、記者が記事にしたくなるようなキャッチーな言葉を据える。もちろん事実に即していなければならないことは言うまでもないが、初、最大、最高、最安・・・、といった記者たちが反応しそうなフレーズや情報をふんだんに盛り込んだリリース、そして写真を入れた「完パケ」CDを用意する。

「09年には、最も安い日本行きツアーとして2,500元の、それも初のモニターツアーを実施しました。大きく記事としても扱われ、問い合わせが殺到しました。ツアーは1日半で売り切れました」

 記者たるもの、プレスリリースをそのまま使うことなど恥ずかしくてできないものだ。最近は日本でも記事を盗用したり、リリースまる写しを恥ずかしく思わない記者も出ているが、そもそも多くの中国人の記者はリリースをそのまま使うことに抵抗がないようだ。社会的地位は高いが、収入が比例しない――。

 記者自身がジレンマを抱えていて、能力や意識、モラルにばらつきがあり、記者の二極化が進んでいる。

 給料が安いのだから、できるだけ手間暇かけずに記事は仕上げたい。記者発表会に参加した記者に、お車代にしては高すぎる「紅包」という謝礼が必須とされ、用意されていなければ一行も記事にはしてもらえない現状も、同じ背景の中にある。また、著作権意識の乏しい社会に慣れ、記者感覚が麻痺しているせいもあるだろう。

 記者はオフィスに戻ってCDを指し込んで多少の文字調整をすれば、あっという間に記事の出来上がり。プレスリリースと一字一句違わない記事も散見される。さらには、それが「読者の興味を引きそうな記事」であれば、またたく間に転載されていく。

 まったく提携関係のないメディアの流したニュースを、許可なく自社のニュースサイトに転載してもいいという、実に不思議な習慣が定着しているからだ。まさに、「転載文化」「コピペ文化」である。そのコピペが禍となることもあれば、使いようによっては、「コピペ福」となっていく。

 表にある既存メディアが統制をされている社会では、ネットなどの裏メディアが発達する。ネットからの発信力、伝播力は日本以上に大きく、速いのだった。

アルファブロガーを狙え

「09年からはブロガーを巻き込んだ展開もしています。彼らをイベントに呼んだり、モニターとして福島県ツアーに招待することで、記事としてアップしてもらうなどの働きかけをしています」(市村さん)

 上海にも、ネットユーザーに影響力を持つ「アルファブロガー」がいるからだ。

 アルファブロガーの活用を決めたのは、08年の日系マンションで行われた夏祭りがきっかけだった。

 その夏祭りは日本人を中心とした居住者家族やその友人向けに行われる、ごく内輪なもの。参加者は、数百人程度のものだ。ところが08年は例年をはるかに上回る数千人規模の中国人が集まった。夕方5時半の開場にもかかわらず、5時の時点でマンション敷地周辺には車が列をなし、交通渋滞が起きていた。

 浴衣を着た上海の女性たちも大挙して押し寄せた。予想を超えた人出に公安からはストップがかかり、8時半の花火を見ることなく7時で中止となった。

 きっかけは、当のマンション管理部に勤務する中国人女性社員が、いくつかのブログに夏祭りを告知する書き込みをしたことだった。これを容認したと言われる日本人上司も、中国人女性社員にしても、まさかこれほど人が集まるとは思っていなかったはずだ。

「書き込みは、浴衣を来て集まれという内容だったそうです。この書き込みによって、上海のネット通販ではずいぶん浴衣と下駄が売れたそうですよ」
  と、市村さん。 

 ブログの力、恐るべし、だ。福島県事務所は毎年、夏祭りには屋台を出しており、事態を目の当たりにした。普通の人なら、そりゃすごいと世間話のひとつにして終わるところだが、市村さんはここにヒントを得て、実行に移した。 

 さらに、09年秋には地元テレビの旅番組に撮影協力した。上海の女性たちが福島県を訪ね福島出身の男性と交流し、カップルになるまでを追いかける、日本で言えば「あいのり」的な番組だった。

 土曜日のゴールデンタイムに5回シリーズで放送され、福島県の魅力を存分にアピールすることができた。同事務所には、どうすればテレビに出られるのかと、他の自治体などから問い合わせが続いたという。

 協力の依頼は、3年ほど前に知りあっていた番組制作会社の知人から、「新番組がスタートするから、助けてほしい」と持ち込まれたものだった。メディア関係者とのリレーションづくりを日頃から心がけておけば、思わぬところから話が舞い込んでくる。

 メディアとのリレーションは重要ではあるが、小さなイベントもおろそかにはしていない。1か月に3、4回はどこかのイベントに福島の特産品を並べた屋台を出している。

 小さなイベントを日々積み重ね、テレビ、新聞そしてネットでのPRも続ける。それらが相乗効果を生み、「福島県」の名が広がっていく。大金を費やさずともPR活動はできるのだった。

「中国で認知度を上げていくのはとても難しい。今でもそう思っていますが、いかにクチコミで広げ、流行を作っていくか、知恵を絞ればできることはあります。中国人は認めたくないでしょうし、口には出さないですが、彼らは日本人に対する憧れを持っていると思います。地方であっても観光客誘致は十分にできます」

 しかし、だ。

「転載文化」を利用したくとも、最初に記事にしてもらうのが至難の業だという嘆きの声は、進出間もない日系企業だけでなく、数年は経っている企業からも聞こえてくる。最初の一歩でつまずいている企業にアドバイスはないかと市村さんに尋ねてみた。

「魅力的なプレスキットを作ること。これだけです。記者の心に響く何かを、日本の企業の商品やサービスは必ず持っているはずです。それを伝えればいいのです」

 頼もしい答えが返ってきた。まずは足元を見よ、ということだ。

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