他の監督とはここが違う
落合博満だけに見えるものがある

週刊現代 プロフィール

「電話があったのが、前シーズンが始まったばかりの6月だったんです。そんな時に来年のチーム編成を考えている監督なんて他にいません。そもそも、現役時代に落合さんとは何の接点もなかったですしね」

 落合監督にとっての「勝てるチーム」に、義理や人間関係のシガラミは邪魔だったのかも知れない。

 秦氏が続ける。

「私のような外様を呼んだのは、中日OBのコーチばかりがつるんだ、なあなあ体質を払拭しようという意図があったんです」

 そして落合監督は、すぐに秦氏に役割を与えた。当時怪我がちだった主戦捕手・谷繁元信のコンディションをケアすること。監督は一切口を出さなかった。

「谷繁の調整だけに集中し、全力を注ぎました。

 2年契約が満了した時、更新の話はもらえなかった。それでも切られたという意識はありません。責任をもって自分の仕事をさせてもらえましたから」

 一度任せたら口出しはしない。ただしチームに必要かどうかは、シビアに判断する。選手からコーチ、スタッフに至るまで、「見られている」という緊張感が充満し、落合流の「プロ意識」が浸透していった。

 外から見た落合野球も、「何をするかわからない」という意外性がある。冒頭で若松氏が言っていた「不気味さ」である。

 たとえばそれは、勝てば優勝もある10月14日の対巨人戦でも見られた。その試合、落合監督は入団1年目の新人投手・大野雄大に、プロ初登板初先発を命じたのである。しかも先発マスクは谷繁ではなく、2年目の松井雅人だった。

「驚きましたね。優勝のかかった試合でデビュー登板させるなんて、普通では考えられません」(若松氏)

 一見、奇策に見える落合監督の投手起用だが、前出の川崎氏は、「落合さんらしい」と指摘する。

「落合監督本来のスタンダードな野球を行う上で、ああいった思いもよらないことをすると、敵に『中日は何をしてくるかわからない』と思い込ませることができる。『わからない』と、意識させれば、落合さんの術中にはまってしまう」

 対戦相手である巨人以上に、今後CSや日本シリーズで戦う相手に、警戒心を植えつける効果もある。

 落合は2回に打ち込まれた大野を、4回までマウンドから降ろさなかった。結果敗れたが、試合後の落合監督は「いい勉強だよ」と笑顔だった。

 解任決定後も落合監督は、自分が去った後のチームの将来を見つめ続けている。その様は、「プロ」としての仕事を、貫徹しようとしているように見える。

編集部からのお知らせ!
ABJ mark

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標 (登録番号 第6091713号) です。 ABJマークについて、詳しくはこちらを御覧ください。https://aebs.or.jp/