神童の法則 才能はいかにして開花したか。親たちが語る「天才少年・少女」の育った環境、育成理論

第2回 落語家 KOHARU亭たいちろう&けいじろう
フライデー プロフィール

 真由美さんの言葉どおり、入院患者たちの間で評判になった〝寄席〟こそが、初めて他人の前で落語を噺した高座であった。それがきっかけとなって、ボランティア的に特養ホームなどでも〝出演〟を請われる機会が増えていったのだ。

「半端な形で続けていいのか」

 落語にハマッていく兄弟に、舞台に憧れた過去がある真由美さんが感化され、一緒に本腰を入れ始めたのは、自然の成り行きだったと言えよう。真由美さんが「小学生 落語家」のキーワードでググッてみると、小・中学生が着物を着て、しっかり落語を語っている動画が見つかった。どうやら演芸コンテストで上位入賞した子たちの録画のようだ。

 冗談半分で「出てみる?」と聞いた時、「出る!」と即答したのは弟のほう。しかも「僕なら、この(動画の)子より上手いわ」と言い切った。一方、兄は「どうしようかなあ・・・」と慎重だった。

 事故があって以来、身体の自由が利かなくなった祖父は、どうしても家にこもりがちになっていた。大阪で予選が行われるそのコンテストへの出場は、真由美さんにとって「孫の晴れ姿を観よう」と祖父を表に連れ出す口実にもなった。

 夏休みが始まったばかりの大阪は暑かった。兄弟の亭号(落語家の名字にあたる部分)「KOHARU亭」は、親しく家族づきあいしている洋食店の名前からいただいた。だが予選会場に一歩入った真由美さんは、すぐに後悔したという。

「・・・私たち、場違いじゃない?」

 まず、年齢層が明らかに高かった。子供など、ほとんどいない。壁に向かってネタ合わせをしている若者たち二人組の目は真剣そのもので、皮肉にもその空間に〝笑い〟は皆無だ。真由美さんは、このコンテストの動画のうち、落語を語る小学生ばかり観ていたために勘違いしたのだが、〝お笑い〟の世界でメシを喰っていこうという若者たちの登竜門的な意味のある大会だったのだ。

「この時点で、決勝進出なんて考えなくなりましたね。早く終わらせて大阪観光しなきゃって(笑)」(真由美さん)

 ところが、両親の予想に反して弟だけが予選を通過し、日を改めて決勝に臨むことになった。啓二朗君が決勝のステージでかけたネタは『動物園』。虎の皮を被って本物の虎のフリをするバイトを請け負った男の滑稽話である。

「前日まで別のネタとどちらにするか迷っていたんですが、出張先から帰ったパパが『そりゃ、啓二朗には動物園だろ』って言ったら『うん』って」

 緊張しすぎて一睡もできず、本番直前の少しの間だけ眠りこけていたという啓二朗君のコンディションは最悪だった。しかも、楽屋に控えていた啓二朗君にとって、いつもと何かが違っていた。

「太一朗がいなくて不安だったんです」

 真由美さんは、あの時の兄弟の姿を思い出し、静かに微笑んだ。出演者ではない太一朗君は、楽屋に立ち入り禁止だったのだが、真由美さんがこっそり招き入れると、兄は弟に「いつも通りにやればいいからね」と語りかけた。演る前からふて腐れていた弟は、即座に「早くしゃべりたい」と元気を取り戻した。