神童の法則 才能はいかにして開花したか。親たちが語る「天才少年・少女」の育った環境、育成理論

第2回 落語家 KOHARU亭たいちろう&けいじろう
フライデー プロフィール
最近、兄弟は漫才にも進出。「啓二朗が舞台でも安心できるのには、お兄ちゃんと一緒が一番」と真由美さん

 なぜ、その本が欲しくなったのか---。それを啓二朗君に尋ねると、「うーん」としばし唸ったが、答えはない。

「CD付きだったからでしょ。それ以外、特に理由はなかったと思います」

 真由美さんは、そう言って笑った。

 ちなみに、田中家にはテレビを観るという習慣がなかった。テレビはあるが、番組を観るのではなく、主にDVDを観るための再生機として使っていたのだ。

 兄弟のお気に入りはアニメの『トムとジェリー』。ご存じ、ネコとネズミが追って追われるドタバタコメディである。兄はネコのトム、弟はネズミのジェリーを模して、しばしば両親を笑わせた。

 真由美さんが買い与えたCDに登場する「ご隠居さん」たちお馴染みの落語世界の住人も、啓二朗君にとって、ジェリー同様、お気に入りのキャラクターとなって身体に染み込んだようだ。CDを聞き込んで〝耳コピー〟する日々が始まったのだ。繰り返し聴いては、挿絵を見て噺の展開を頭に詰め込み、すっかり暗記しては復唱する。真由美さんは、啓二朗君の不思議なクセを明かした。

「なぜだか、啓二朗は本を逆さまにして眺めて、頭に入れていくんです」

 キャンプから戻った太一朗君も、アッと言う間に落語CDの虜になって、弟の隣で絵本の文字を追った。病気がちで読書に親しんでいた太一朗君は目で字を追い、弟の啓二朗君は耳から入ってくる噺をそのまま記憶する。このスタイルは、今に至るまでそれほど変わっていない。

 その頃、真由美さんは疲れ切っていた。この年の5月の連休、兄弟の祖父・中川政明さん(62)が事故で頸椎を損傷し、首から下が麻痺してしまったのだ。娘の真由美さんが片道1時間半かけて病院へ通い、介護をする生活の中、わずかな癒しが、兄弟が目の前で披露する落語であった。

「なんなら、あんたたち、病院のおじいちゃんにも見せてあげれば」

 真由美さんは100円ショップで座布団と扇子、手ぬぐいを購入し、政明さんのベッドサイドで一席設けた。意気消沈していた政明さんは徐々に元気を取り戻す。手応えを感じた兄弟は、新しい噺をどんどん覚えては、病院へ通うようになった。

 田中家にお邪魔してのインタビューの間、太一朗君はこちらを飽きさせまいと、せっせと言葉を繰り出す。一方、啓二朗君はマイペースで愛想など振りまかない。それは病院でも変わらず、祖父以外の入院患者の前で噺を披露するようになったのは、社交性のある兄が人見知りの激しい弟の手を引いたからだった。

「それが、この子たちの原点ですね」