まさに衝撃的なデビューだったといえるだろう。
ガソリン車でハイブリッド車並みの低燃費、しかも79万円台からという軽ならではの低価格を実現したダイハツの「ミラ イース」。
第3のエコカーとして注目を集める同車がマーケットや消費者におよぼす経済効果とは。
トレンドにも詳しいマーケティングライターの牛窪恵さんによる誌上講義をお届けする。
Text by Satoshi Kato Photographs by Yoshio Tanioka(Interview)
私は2006年から、20代から30代前半の男性に取材を行ってきました。すなわち私が草食系男子と呼ぶ世代です。彼らの多くは、クルマを持つことに対して、あまり積極的ではないような傾向が見られます。
その理由の1つが、費用的な負担を感じていたり、交通手段が発達した都会では、乗りたいときだけ、レンタカーやカーシェアリングを活用すればよいという、効率優先の考え方の持ち主が多いからです。もう1つが環境問題です。とくに今の20代の人の多くは学校でエコ教育を受けているのでエコ意識が高い。環境に悪そうなクルマならばいらないと言う人までいます。
しかし、よくよく聞いてみると、まったく欲しくないというわけではなさそうなんです。根っこの部分では、クルマが自らの行動範囲や世界を広げてくれる便利なツールであることを認めているのです。それなのに、「環境に悪い」とか「クルマにステータスを感じるというバブル的価値観の否定」といった考えが、その興味を阻害していたり、それを理由に買わないというケースをずっと見てきました。
そこに登場したのがハイブリッド車に代表されるエコカーです。2年前には各社がこぞって市場に投入し、エコカー減税も加わったことで、価格競争が巻き起こりました。それでも買ったのはごく一部の人たち。多くの人にとってエコカーはまだまだ高価でした。
しかし今回発売されたダイハツの「ミラ イース」はハイブリッド車並みの低燃費(*4)と、省資源・低価格を実現。限られた人だけが乗るクルマという印象だったエコカーが、一般の人々の手の届く価格になったことは自動車業界にとって、かなりのインパクトと言えそうです。
先に述べたように若い世代は総じて環境問題や社会貢献の意識が高いのですが、加えてコストパフォーマンスの高さが、彼らの考える「エコ」にとっては外せないポイントです。たとえば、若者のジョギングブームも、健康的でありながら、あまりお金をかけずにできるという理由から。単にエコロジーなだけでなく、プラスアルファの要素にエコノミーがあって初めて彼らには響くわけです。
さらに彼らは、イニシャルコストやランニングコストを含めた費用対効果だけじゃなく、ブランド価値も重視します。エコカーは、その代表格です。つまりエコカーでありながら、低価格を実現した「ミラ イース」は、まさに若者世代待望のクルマと言えます。もちろん若者のものだけにするのはもったいない。乗り回しやすいサイズの軽自動車ですから、今後はシニア世代の買い替え需要拡大も期待できるでしょう。