今年もあの季節がやってきた・・・
プロ野球獲るべきか、見送るべきか
スカウトが迷うとき

週刊現代 プロフィール

 その一方で、元近鉄スカウトで、現在大リーグ・マリナーズのスカウト職にある山本泰氏は、「スカウトの眼力が最も発揮されるのは、下位指名選手だ」と言う。

 山本氏が例に挙げたのは岩隈久志(30歳)。楽天のエースがプロ入りの切符を?んだのは、'99年、近鉄からの5位指名だった。

「当時(堀越高)の岩隈は、球速が133km程度で注目度は低く、ドラフト当日も3位まで進んだ時点でどこからも指名がかからなかった。もちろんうちのリストにも載っていませんでした。ところが昼飯の時間に、当時の球団社長が、『スカウトのみなさんに推薦したい選手はいないんですか』と言い出した。社長の思いつきだったんでしょう。例年、会議当日にそんなことは起こりません。

 戸惑いましたが、頭にはあの柔らかい投球フォームが浮かんでいる。社長に『山本さん誰かいませんか』と指名され、『岩隈という投手がいます』と答えました。もし社長の一言がなかったら、岩隈はプロ入りが遅れたり、他球団に獲られていたかもしれません」

 山本氏の一言があったからこそ、未来の20勝投手はプロの世界に入ることができた。だが、スカウトがいくら「この選手を獲得したい」と思っても、実際の指名には様々な要因が複雑に絡み合う。ドラフト当日ギリギリまで、監督の意向やチーム事情はめまぐるしく変化するという。

まさか大成するとは

「ドラフト前は、戦力のバランスや、他球団の動向もにらみながら、何度もシミュレーションを重ねます。獲得後の育成プランまで立てて、指名選手を絞りこむ」

 そう語るのは、15年近くスカウトを務めた元オリックススカウト部長、熊野輝光氏だ。熊野氏がドラフトの度に思い出すのが、'04年に金子千尋(27歳)を自由獲得枠で獲得したときのことだ。

「あの年、オリックスは近鉄との球団合併の影響で、当初は4位からしか指名できないことになっていた。ところが、ドラフトの直前になって1位指名ができることになったんです。でもその時には、我々のリストには上位指名予想の選手は残っていなかった。そこで浮かんだのが、トヨタ自動車の金子でした。当時の彼は実戦でほとんど投げておらず、他球団も来年以降の指名選手という位置づけだった。でも僕は、彼が甲子園のブルペンでとんでもない球を投げていたのが強烈に印象に残っていた」

 一度見た金子の鞭のようにしなる腕は、「藤川球児(阪神)以上だった」(熊野氏)と言う。上からは「ダメ元でも行け」と指示が下った。しかし金子はトヨタにとっても次期エース候補。トヨタ側との交渉は、予想通り膠着する。

 熊野氏を救ったのは金子本人だった。