今年もあの季節がやってきた・・・
プロ野球獲るべきか、見送るべきか
スカウトが迷うとき

週刊現代 プロフィール

みんなに反対されたけど

 もう一人、中村氏にとって思い入れが強い選手が、現在大リーグでプレーする岡島秀樹(35歳)だ。京都東山高3年の時、岡島はセンバツで肩を痛めてしまう。

 その後の練習試合で結果を出せず、顔を捕手に向けない独特のフォームのせいもあり、岡島に対するスカウトたちの関心はどんどん薄れていった。しかしドラフト直前の9月、「念のために」東山高を訪れた中村氏は、そこで驚きの光景を目にする。

「半年近く復調していなかったはずの岡島の球が、ケガの前より走っているんです。長谷部(栄一)監督(当時)にきくと『岡島は、学校での練習とウェイトトレーニングを、交互に毎日やっている』という」

 ケガの間も自発的に練習を続けていた岡島に、中村氏は桑田真澄の姿を重ねた。

「自己管理できるというのは投手としてとても大切な要素。そこでドラフト当日のスカウトリストに残すことにしたんです。
ただ、投手出身のスカウトから『あのフォームでは成功しない』と言われ、最後まで多くの人から反対されましたけどね。岡島は'00年の日本シリーズでは胴上げ投手にもなった。あの日、東山高を訪れて本当に良かったですよ」

 ケガは、常にスカウトたちの悩みの種だ。岡島のように「ケガの功名」ともいえるケースは珍しい。新人にもなるべく早い活躍を望む各球団にとって、ケガの選手を獲るメリットはあまりに少ない。

 だが、かつてロッテでスカウトを務めた飯塚佳寛氏には、故障と手術の影響で、キャッチボールすらままならない投手の指名を進言した経験がある。成瀬善久(26歳)、現在の左のエースである。飯塚氏が回想する。

「手術自体は内視鏡を入れるクリーニング手術で、決して大きなものではありませんでした。しかしケガ以前に見せていた制球力を取り戻せる保証はどこにもありません。それでも賭ける価値があるか。相当悩みました。でも最後は成瀬の『強さ』が決め手になった」

 成瀬はプロ入り後2年近く登板なし。それでも飯塚氏には、成瀬が大成するという確信があった。事実、成瀬は、3年目には先発の一角を担うようになる。

「周りからは『こんな選手獲ってどうする』と言われました。でも成瀬は、高校時代から、一人で黙々と練習に打ち込める精神的な『強さ』を持っていたんです。ダメになる選手は、みんなといるときは練習しても、しばらくすると遊びを覚え徒党を組むようになる。自分だけの練習をする時間が減っていく。その心配は、成瀬には無縁だった」

 一級品の才能に入った、「ケガ」というひび割れ。スカウトはその傷の深さ、大きさだけでなく、本人の修正力にまで眼を配る。