中国共産党の年に一度のビッグイベント「6中全会」
「文化事業機関」を市場化していく中国の今後は?

近藤 大介 プロフィール

 だがこれからは、事情が一変するだろうという。語るのは、中国の大手出版社社長だ。

「たとえばわが社が、『中国共産党革命史』という本を中国で出して、それを日本へ売りたいとする。だが日本の出版社はどこも引き受けてくれない。それなら、日本語への翻訳代100万円プラス出版謝礼100万円の計200万円を、中国が国庫から補助金として出すとしたらどうだろう。必ずや手を挙げてくれる日本の出版社が現れるに違いない」

 確かに中国は、3兆2017億ドル(2011年9月時点)もの外貨準備高を誇る世界最大の金満国家である。大枚はたいて「中華文化」を世界に'買って'ゆけばよいのだ。

 そして第3のポイントが、「社会主義文化強国」という点である。6中全会では、首都・北京の「社会主義文化首都建設化」が、集中的に討議された。北京には159の博物館、295ヵ所の舞台があり、2010年に10・9億元(1元≒12円)の演出興行収入、同1692億元の文化産業のGDPアップ、同11・8億元の映画興行収入があったという。だがそれでも、ニューヨークやロンドン、パリ、東京などの世界の首都の華やかな文化には遠く及ばない。そこで今後は、国(共産党)を挙げて、文化首都建設化を推進していくという。だがこれには「社会主義」という接頭語が付いて、あくまでも「社会主義文化首都建設」なのである。

 では、「社会主義文化首都建設」とは何か。一番分かりやすいのは、北京首都国際空港に降り立って、空港出口の長い廊下をきょろきょろしながらゆっくり歩いてみることである。廊下の進行方向左手に、まるでルーブル美術館が移ってきたかのような、大量の豪華絢爛な油絵が展示されていることに気付くだろう。

 「イエス・キリストの山上の垂訓」を思わせる毛沢東主席の「抗日戦線指導図」や、ドラクロアのフランス革命画を思わせる「共産党革命に沸き返る中国人民図」などなど、日本からの長旅で疲れた体をシャキッとさせるに十分な逸品が揃っている。これらは当初、7月1日の「中国共産党90周年」に向けた記念展示だったが、「大好評につき」展示期間の大幅延長が図られたのだった。

 そういえば、最近は北京の街に赤旗のスローガンが、やたらと目につくようになった。この先、別に北京が平壌化していっても、一外国人としては内政干渉するつもりはないのだが、文化・芸術というのは、あらゆる束縛から解き放たれた自由な状態でいる時に、最高の形で作品に昇華するものだ。その集積が、ニューヨークでありロンドンでありパリであり東京である。

 そのため、「文化の市場化」の流れは理解できるが、「社会主義文化強国」というのは、多分に自己矛盾を孕んだスローガンなのである。「社会主義」という縛りが強まれば強まるほど、自由度は少なくなって、「文化強国」への道は遠のくのではなかろうか。1966年に、社会主義文化の振興を目指して始まったはずの文化大革命が、逆に厖大な文化と人心の破壊に終わったのが、その好例である。

 ともあれ、今回の「中国の特色ある文化振興策」は、いよいよ一年後に迫った「習近平時代」の幕開けを色濃く感じさせるものだ。習近平副主席に代表される「太子党」(革命幹部の子弟)は、総じて中国共産党のオールド・ファッションなスタイルを懐かしむ傾向にあるからだ。

 こうした新たな文化政策の「先兵隊」として、先週末から蔡武・文化大臣一行が訪日中である。「中華文化のルネッサンス」には期待するが、文化大革命の再来だけは、避けてほしいものだ。