「日本の大地震についてフェイスブックページを開設しました。みんなで共有できる情報があったら、コメント欄に書き込んでください。私に直接メールを出すか、ツイッターでつぶやいていただいてもいいです」
東日本巨大地震発生直後の11日午前7時(アメリカ西海岸時間)、こんな内容のメールが送られてきた。差出人は、アメリカのコロンビア大学ジャーナリズムスクール(Jスクール)の教授、スリー・スリーニバサン。私も含め多くのJスクール卒業生が同じメールを受け取っている。
見出し一覧、映像・写真、ビデオ生中継、リアルタイム警報、主な記事、取材ツール、フォローすべきツイッター---。
「ジャパンクウェイク」と題したフェイスブックページを見ると、初日から情報満載。「フォローすべきツイッター」には、仙台を拠点に活躍するカナダ生まれのミュージシャン、ブレイズ・プラントも入っている。
それから1時間足らずして、再びスリーニバサンからのメールが送られてきた。今度は、Jスクール卒業生から受け取ったメールを転送している。内容はこうだ。
「著名な日系アメリカ人で構成される一団が東京を訪問しており、大地震を目撃しました。団長は、日米カウンシル会長のアイリーン・ヒラノ・イノウエです。すぐにインタビュー可能です。一団はすでに新外務大臣の松本剛明と会談し、11日午後には首相の菅直人と会談予定でした」
それからさらに1時間後、「日本にいるヒスパニック系の人を探しています。今どんな状況に置かれているのか、スペイン語でAP通信に語ってもらいたいのです」というメールが来た。差出人はJスクール卒業生だ。
それに対してスリーニバサンが5分後に答えている。
「ニューヨークにスペイン人のジャーナリストがいます。今、日本にいる妻に連絡を入れている最中です。彼なら日本にいるヒスパニック系の人を知っているかもしれません。メールを書いてみるといいですよ」
巨大地震発生直後から、ニューヨークにあるコロンビア大Jスクールがフル回転している。世界中に散らばる卒業生をつなぐことで、アメリカのメディアによる取材を側面支援しようとしている。
巨大地震に絡んでインターネット上には玉石混交の情報が氾濫している。明らかなデマ情報に加えて、「役に立つのでは」という善意で流されたのに実は不正確だったり事実誤認だったりする情報もある。政府発表の情報さえも信頼性に欠ける場合もある。
こんな状況下で暗闇に火をともすような役割を担うべきなのは誰か。職業ジャーナリストである。事実確認の徹底など情報の正確性を追求する点で専門的な訓練を積んでいるからである。
「ジャパンクウェイク」の価値もここにある。このページ作成に協力したのは、スリーニバサンの呼び掛けに応じたJスクール卒業生ら27人。ジャーナリズム教育を受け、第一線で活躍してきた専門家が情報をふるい分けたのである。
Jスクールの卒業生ネットワークは強力だ。現在9943人の卒業生を網羅しており、このうち2000前後がアメリカ国外。卒業生担当の学長補佐アイリーナ・スターンは「国外の卒業生ネットワークは2005年に作った。情報交換や取材活動のツールとして非常に活発に利用されている」と話す。
しかも卒業生の多くは「アクションを起こせる現役ジャーナリスト」である。Jスクールは100年の歴史を持つ名門であるだけに、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナルなどの有力紙で大勢の卒業生が現役で働いている。大企業の経営者にハーバード大学ビジネススクール出身者が多いように、有力メディア所属の著名ジャーナリストにはJスクール出身者が多い。
例えば、Jスクール留学時代に私の指導教官だったジョナサン・ランドマンは1978年卒であり、現在はニューヨーク・タイムズ編集局次長だ。2008年にワシントン・ポストの名編集局長レオナード・ダウニーが引退する際には、後任編集局長として取りざたされたこともあった。
卒業生の間の結束も強い。Jスクールが卒業生ネットワークの維持・管理に力を入れているため、フリーランスであっても同窓生を頼りにさまざまなメディアに寄稿できる。逆に言えば、メディア側が大幅なリストラを強いられて人手不足に陥っても、専門的訓練を積んだフリーランスを機動的に活用できるというわけだ。