超ヒット商品  三洋電機『GOPAN(ゴパン)』を開発した男

買いたくても買えない
週刊現代 プロフィール

 実際に自宅で試してみると、大当たりだった。あとは米と水の割合の調整で、ひたすら実験を繰り返した。次第に実験機材は増えて、最終的には、ミルが4台、ホームベーカリーは8台にもなった。探求の結果、米がペースト状になる割合で配合したらうまくいく、ということがわかった。

 こうしたデータをもって、下澤氏は『GOPAN』開発チームにプレゼン。製品化に至った。その後の売れ行きは前述のとおりだ。

缶ビールを見て閃いた

 下澤氏は、こうした発想をどこから得るのか。

「私は徹底した現場主義者です。すぐどこかへ出かけてしまうので、ほとんど会社にはいなかったくらい。

 アイデアを探すときには、銀座に行きます。他の開発者は秋葉原の電気街に行って他社製品を見たりすると聞きますが、あそこには過去の商品しかない。新しい発想というのは全く別のところにある。銀座にはいろんな新しいものが入ってくるので面白い」(下澤氏)

 炊飯器の開発ストーリーもこの発想法を物語る。

 下澤氏が炊飯器を開発する上で目標としたのは徹頭徹尾、かまどで炊いた米だった。下澤氏は他社製品には目もくれず、ひたすらかまどをライバルとして研究し続け、ついには工場の敷地に小屋を建て、かまどをつくってしまった。

「かまどで炊いたらどんなめしが炊けるかは、かまどで炊いてみなければわからない。それがおいしかったら、今度はその味をどう取り込むか、考えるんです。

 私は凝り性で、ハマったらとことん調べないと気が済まない。紅茶、スコッチ、日本酒なんかは、採点して記録をつけてます。

 当然、米も研究して、世界中の米を食べ尽くしました。実は米もブレンドした方がおいしいんです。うどんも粉を混ぜた方が食感がいいでしょう。米もそうなんです。大雑把に言うと、太平洋側の米と日本海側の米を混ぜるとおいしい。騙されたと思って一度やってみてください」(下澤氏)

 '92年、下澤氏は「圧力釜」という画期的発明をした。炊飯中に圧力をかけ沸点を上げることで、より高温での炊飯が可能になる。現在国内の炊飯器メーカー8社のうち、5社が圧力方式を採用している。それでも下澤氏は満足しなかった。

「炊飯器で米を炊くと、中央の部分がへこむでしょう。あれは釜から遠い中心部は火の通りが悪くて、米が膨らみきっていないからなんです。かといって周縁部は逆に膨らみすぎていておいしくない。一番おいしいのは釜から何cm、という研究をしていた方もいたくらいです。全体をうまく炊くには、炊飯中にもっと米をかき混ぜる必要がありました」(下澤氏)

 代表作〝おどり炊き〟の完成に至るヒントはやはり日常の現場にあった。

「ショットバーで仲間が飲んでいた『ドラフトギネス』という缶ビールを見た時です。この中には、きめ細かい泡をつくるために、直径3cmくらいのプラスチックのボールが入っているんです。缶を開けた瞬間、内部圧力が急激に下がって、玉が缶内を駆けまわる。それが細かい泡を生むんです。