超ヒット商品  三洋電機『GOPAN(ゴパン)』を開発した男

買いたくても買えない
週刊現代 プロフィール

 この状況を打破したのは、『GOPAN』開発チームではなく、当時そのとなりの部隊にいた下澤氏だった。

 下澤氏は'75年から、30年以上にわたって炊飯器の開発にかかわってきた。'92年に世界初の圧力式炊飯器を、'02年に革命的ヒット商品「おどり炊き」シリーズを開発。日本の炊飯器史を何度も塗り替えてきた、いわば「お米の神様」のような人物だ。

 会議で同席する『GOPAN』開発チームの苦境は下澤氏も把握していた。

「『GOPAN』開発で最も苦労していたのは米を粉にする過程でした。

 米を細かくするには、ミルの隙間を狭くしなくてはいけない。でも、そこを詰めると、摩擦で熱が発生してしまうんです。米というのは熱が入ると、粉ではなく糊になってしまう。そうなると、もうどうやってもパンにはなりません。

 さらにネックだったのは米の硬さです。米は想像するよりずっと硬いため、なかなかうまく砕けなかったんです。ミルに使う刃に様々な材質を試しましたが、失敗続きで、全然パンにするところまでいかなかった。

 でも一度だけ、うまくパンの形までたどりついたことがありました。セラミックの刃で試したときです。ついに成功した、と思って試食してみると、なんだかジャリジャリする。調べるとセラミックの刃が細かく砕けてパンに入っていました。当然失敗です。米から米粉をつくる、なんて一見簡単に思えますが、全然前に進まなかった。

 普通、米粉をつくるには、ワンルームアパート1部屋分くらい大型の、1億円近くする機械が必要になるので、当たり前といえば当たり前です」(下澤氏)

順番をひっくり返してみた

 となりの『GOPAN』開発が暗礁に乗り上げている'07年の10月、下澤氏は定年を迎えた。再雇用で嘱託になったことを機に、できた時間で『GOPAN』について本格的に考え始めた。

「ひらめいたのは'08年になってからです。考えていたのは米粉業者のことでした。実は米って、業者で米粉にしてもらうと、かなり減ってしまうんです。100㎏の米を送ったら、だいたい90㎏になって返ってくる。残りの10㎏は細かくなりすぎてどこかへ飛んでいってしまうんです。米粉は高価ですし、おそらくその飛んでしまった部分が一番細かく砕けているはずですから、それがもったいないな、と思っていたんです。

 だから、順番を変えて、粉にする前に水を先に入れてみたらどうか、と思いつきました。

 水の中で米を砕けば、粉は飛んでいかない。そしてなにより、米は水に浸けておくと、指でつまんで粉々に潰せるくらい脆くなる。私は炊飯器開発の経験から、そういう米の性質を熟知していました。

 私は以前、電子オーブンをつくって、パンを焼いていたことがありました。製麺機をつくって水と粉を扱ったこともありました。『GOPAN』にはそういう経験が全部生きた。無駄なものは一つもなかったんだ、と思いました」(下澤氏)