大金を費やさずとも
~福島県PR作戦の快進撃 vol.1
修学旅行客誘致に成功した「無名自治体」
日本の経済誌に「無名自治体の挑戦」と書かれて、自治体関係者の間で有名になった地方自治体がある。中国の富裕層の子どもが通う私立学校の修学旅行を成功させている福島県だ。
上海には現在、20を超える地方自治体が事務所を構え、ビジネス支援や地元名産品の中国市場への売り込み、観光客誘致などを行っている。このところ地方自治体がとりわけ力を入れているのが、観光客誘致だ。
東京、大阪、京都は上海人は誰もが知っている。上海が最初に友好都市提携を結んだ横浜市や友好交流関係にある長崎県も知名度は高い。
長崎県は2001年から修学旅行の受け入れを行っている。最近は、大ヒットした中国映画をきっかけに北海道観光ブームも起きた。ディズニーランドのある千葉や、温泉の代名詞として箱根もちらほら知られている。
しかし、その他の県や都市というと一般での認知度は限りなく低い。福島県も例外ではなく、福岡県と間違われることも多かった。中国では無名の地方自治体が、修学旅行誘致に成功したのだ。
いまだ「無名」の自治体にとっては垂涎ものであり、話題になるはずである。
福島県が修学旅行誘致に動き出したのは香港や台湾の学校からで、その後大陸でも誘致活動を始めた。大陸からの最初の修学旅行団は07年、広東省の中学校だった。
08年からは湖北省の高校でも始まり、09年になると上海の小学校1校も加わった。09年は計3校が福島県を訪れた。上海ではほかに2校が実施予定だったが、新型インフルエンザの流行で中止に。中止を決めた学校も今後は実施する意向だという。
誘致のために学校訪問しようとしても、そう簡単にはアポをとることもできない。市の教育部門への働きかけを続け、それがやがて個別の学校訪問へとつながっていく。有力校関係者の日本招待などを経て、実現にこぎつけた。
「心のこもった交流を通して、子どもたちに思い出を作ってもらおうというのが狙いです。子どもたちの心に福島の思い出が日本の『原点』として残れば、大人になってからも家族や友人を連れて福島にやってきてくれるからです」(福島県上海事務所長・市村尊広さん)
ただし、中国では修学旅行は主に、夏休みの7月に実施されることが多い。参加も希望者のみだ。
季節が限定されるため、楽しんでもらえる行事やもてなしも限られてはくるが、要は工夫次第だ。自然の豊かさや福島特産の美味しい食事、日本人の子どもたちとの交流は、中国の学校関係者に喜ばれている。
福島県がターゲットとしているのは、富裕層の子どもが通う学校ばかり。
持たされる子どもたちのお小遣いの額も、日本人の常識を超える。帰路の福島空港では「お小遣いの2万元(約26万円)が使い切れなかった」と苦情まで寄せられたそうだ。
中国の学校関係者の反応と教育的目的を考えれば、修学旅行は必ずしも都会である必要はない。ドル箱の修学旅行ご一行様を地方自治体が誘致できる可能性は存分に残されていると言っていいだろう。
「大河の中の一滴」にカネをかけても
福島県の快進撃は子どもたちの修学旅行誘致にとどまらない。大人をターゲットとした観光誘致活動も盛んに行い、成功している。
08年から主軸としているのは、新聞や雑誌、ネットなどへ掲載してもらうよう働きかけるパブリシティ活動だ。それまでは、地下鉄構内の広告パネルやバスの車内広告など広告費を使ってきた。
しかし、メディアの数があまりに多い上海には、広告もあふれている。地下鉄にたった1枚広告パネルを設置しても目立たず、「大河の中の一滴」(前出・市村所長)にすぎない。
費用対効果に疑問を持つようになっていた頃、ちょうど金融危機が重なった。不況時に予算の中で真っ先に削られるのが宣伝・広告費であるのは、地方自治体も同じである。
08年は、物産展やイベントへの出展などを中心に行った。そのたびに記者発表を行ったが、集まる記者は20人ほどの小規模なものだ。
しかし、同県事務所が徹底的にこだわったことがある。記者にとって「魅力的なプレスキット」を作ることだった。
予算がない中で、どう話題づくりをしていくか――。中国人記者たちの特性も踏まえ、考えた結果だった。
―― 次回に続く ――