どう闘うべきなのか、そもそも闘えるのか
いつかあなたも直面する「末期がん」の大研究

週刊現代 プロフィール

「がん治療はおカネがかかる。治せるのは金持ちだけで、貧乏人はどうにもならない。まさにおカネで命を買っているような感覚になるんです」(佐藤さん)

思考が幼稚化していく人も

 医療費の自己負担額が一定額を越えると、過剰分が払い戻される高額療養費制度があるものの、闘病生活が数年単位になると、費用の負担は次第に耐えがたいものになってくる。患者や家族を苦しめる心労の最たるもののひとつがこれだ。

 こうした金銭的な悩みや、家族への気兼ね、人生に対する絶望感などから、うつになるケースもある。

「その方の状況にもよりますが、年齢が若くて後に残していくものが多い人は、それに対する不安が具体的に出てくることが多い。高齢者になると、自分が家族の迷惑になっているのではないか、負担をかけているのではないか、だったら早く逝ったほうがいいと思う方もいる。そうした心理状況から、うつに入っていく人もいるのです」(前出・林医師)

 がん患者の心の変化の一つで、「幼稚化」の傾向が見られる人もいるという。がん患者の心のケアに携わってきた「がん哲学外来」の創設者で、順天堂大学医学部教授の樋野興夫医師が語る。

「同じ量の飲み物でも、細い容器で水位が高いほうが、口径が広くて水位の低い容器のものより多いと主張される人もいる。言葉遣いは大人と変わりないが、理解度が極端に落ちる、同じことを何回も聞く、思ったことを躊躇なくそのまま口にするなど、6歳以下の子どもの思考レベルに返ってしまうこともある。自分のことで手一杯になり、他人への気遣いができなくなってしまう。また、依存性が高まって、何をするにも手助けを求めたり、物事をやりっぱなしで放りだす。あるいは、毎日『つらい、つらい』と訴えて家族を振り回す。そうした患者に対しては、子どもに話しかけるように接しなければなりません」

 末期がんが、これらのような心の問題を引き起こす可能性があるのであれば、それに対する心の備えが必要だ。前出の樋野医師は、がん患者へのアドバイスとしてこう語る。

「死を宣告された末期がん患者の心は、絶望で占められてしまいます。がんになると、健康だった頃の価値が通用しなくなり、地位や名誉を手に入れた人であっても、みな寂しく、哀れな人間になる。そのときに大切なのは、『自分は何であるか』ということ。それによって、『自分がどうあるべきか』という尊厳自体に価値が見出されていく。人間というのは、社会や周囲に期待するから失望してしまうのです。そうではなく、自分が社会や周囲から期待されていることを認識すればいいのです」

 平岩医師は、がん患者に対してはいつもこう言っているという。

「かなりがんが進行していると聞けば、患者さんやご家族は、最初はオロオロします。そのとき私は、『一度、棺桶に入るところを想像してください』と言います。まず、自分が死んで棺桶に入るイメージを持つ。その後、棺桶から出て、生きていたときのことを振り返る。いったん自分をゼロにしてから考えれば、話せるとか、お腹が空く、身体を動かすことができるといったことが、全部プラスに感じられる。失ったもの、例えば髪の毛が抜けるとか、目が見えなくなったといったことばかりを考えるのではなく、まだ自分が持っている機能に目を向ける。そのうえで何ができるのか。できることはたくさんあるでしょう」