どう闘うべきなのか、そもそも闘えるのか
いつかあなたも直面する「末期がん」の大研究

週刊現代 プロフィール

 この場合も、苦痛は訴えられていないという。

「血圧が下がったり、肺の酸素の取り込みが十分でないために脳が酸欠状態になると、心地よさを感じるエンドルフィンなどの快感物質がドッと分泌されることがわかっている。死ぬということは、名実ともに、ゆっくりと気持ちよく永遠の眠りにつくことだと私は思っています」(小野寺医師)

 末期がんであっても、苦痛に対する心配は、どうやらあまり必要なさそうだ。このように、痛みのコントロールが可能になってきている今日、特に重要視されているのが心の問題だ。

 もし自分が末期がんの宣告を受けた場合、冒頭の佐藤さんのように冷静な対応ができるだろうか。

 前出の小野寺医師は、これまで2500人以上の末期がん患者を診てきた経験から、「助からないとわかったときの受け取り方は百人百様だが、年齢によっての傾向が見られる」と言う。

「40代は不穏状態が続き、自分が置かれている状況を受け入れられず、混乱したまま亡くなる人が多い。50代は人生が最も充実している時期にある人が多く、悲しみや無念さが最も強く、生きることにしがみつく傾向があります。また、70代で生き甲斐を感じながら精いっぱい生きてきた人は、死に対する抵抗心が弱くなり、おおむね穏やかです」

 末期がんという現実が受け入れられず、藁をも掴む思いで効果が定かでない療法に大金をつぎ込んだ末に亡くなるというケースも珍しくない。小野寺医師が看取った岩田亨さん(仮名・享年56)もその一人だ。

 岩田さんは54歳で大腸がんの手術を受けた。2年後、肺への転移で再発。当初は入院した病院で開発したワクチン療法と抗がん剤療法を受けていたが、その後、肝臓から脊椎骨へとがんが広がっていった。

 その間、病院の勧めに従って免疫療法を受け続け、その費用だけで1500万円を費やしたが、ついにまったく歩けなくなったところで、小野寺医師のホスピスにやってきたというのだ。

「免疫療法はまだ研究段階で、臨床的有用性が明らかに証明されているものではありません。免疫療法に300万円から最高で2000万円までかけた患者20人以上と接していますが、効いたという人は一人もいないのです」(小野寺医師)

 がんは、こうした補完代替医療を受けずとも、通常の治療だけでも大変なカネが要る。2年半にわたって膵臓がんと闘っている冒頭の佐藤さんの場合、3割負担分の入院費は通算で124万円(11週余)。それ以外の期間は化学療法を受けているが、週1回の通院でタクシー代が往復1万3000円。抗がん剤治療費が月約5万円。加えて、がんにいいというので飲み続けている健康飲料が1週間分で5万2500円。まさに羽が生えたようにカネが飛んでいく。

 加入していた生命保険が、余命宣告をされた際に一時金がもらえるタイプのものだったため、がんが発覚した時点で700万円が入ったが、ほぼすべてがこれらの費用で消えている。