火曜日の午後(10月4日米国時間)、米ネットメディアは蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった。「理由は分からない。ラリーが、明日やる僕の基調講演をキャンセルしてきた」とマーク・ベニオフ会長(セールスフォース社)がツイッターでささやいたからだ。
今週、サンフランシスコでは、オラクル・オープン・ワールド会議が開催されていた。オラクルは企業アプリケーションの大手で、毎年数万人の開発者やユーザーを集めて会議・展示会を開催する。ベンダー主催の展示会ではトップクラスの規模で、会場周辺の道路を閉鎖して仮設テントでスペースを確保する。その基調講演費は、1回100万ドル。日本円で7,600万円と高額だ。
ベニオフ会長の基調講演は水曜日の朝に予定されていたが、前日の午後3時過ぎに、オラクルからキャンセルのメールが飛び込んできた。どうやらラリー・エリソン氏(オラクル会長)の逆鱗に触れ、突然の中止となったようだ。シリコンバレーを代表する二人のリーダーに何が起こったのか、その真相を追ってみたい。
まず、セールスフォース(Salesforce.com)とオラクル(Oracle)を紹介しておこう。
1999年に設立されたセールスフォースは、オラクルのデータベースを使って中小企業向けにインターネットでアプリケーション・サービスを提供することだった。当時、オラクルの宿敵だったマイクロソフトの「中小企業顧客を切り崩すこと」も目的だったと言われている。現在も、セールスフォース社のシステム基盤にはオラクル社のデータベースが使われている。
しかし、それは10年以上も昔の話。現在のセールスフォースは、クラウドを使った顧客管理ソフトの最大手で、アマゾンと並ぶ注目企業だ。同社システムは、郵便局やトヨタ自動車など大手が採用している。
一方、オラクルは企業向け大規模データベースの最大手であるとともに、ミドルウェアや各種基幹業務ソフトでもトップクラスを走っている。IBMやHP(ヒューレット・パッカード)とともに法人市場を牛耳る存在だ。
過去、ピープルソフトやシーベル・システムズなどを次々と買収して事業規模を拡大し、業務アプリケーションでIBMとトップを2分している。最近は、サーバー製造販売の大手で、開発言語JAVAを生み出したサン・マイクロシステムズを買収して、ハードウェアも手に入れている。オラクルはアップルやHPと並んでシリコンバレーを代表する大企業といえる。
ただ、IBMやHPがクラウド・サービスで業績を伸ばす一方、オラクルは同市場への対応に手間取った。その辺は後ほど解説するが、クラウド・ブームに沸くシリコンバレーにありながら、オラクルは「門外漢」と思われていた。
なお、セールスフォースのマーク・ベニオフ会長は、昔オラクルのエグゼクティブだった。つまり、ベニオフ氏にとって、エリソン会長は元の上司。約13年前、セールスフォースを設立する際にエリソン会長も出資している間柄だ。また、エリソン会長とベニオフ会長は、日本好きでも共通している。