『赤い三日月 小説ソブリン債務』黒木亮が緊急寄稿
「ハゲタカ」に狙われる欧州の金融危機を横目に、急浮上する「オスマン帝国」のルネッサンス

黒木 亮 プロフィール

 しかし、EU側は「入れない」とはいえず、トルコも「入らない」とはいえないだけのことだ。ギリシャが通貨ユーロに参加したために為替と金利という2つの金融政策ツールを使えなくなったのを目のあたりにしたトルコにとって、EU加盟の魅力がいっそう減退したことは想像に難くない。

 エルドアン首相は、好調な経済を背景に、従来の欧米・イスラエル寄りの外交方針を大きく転換し、積極的な中東・中央アジア外交に乗り出している。民族的なルーツが同じ中央アジア諸国とはもともと緊密な関係にあるが、昨年は国連の対イラン制裁決議に反対票を投じ、ブラジルとともに米国とイランの対話仲介に乗り出した。

長期安定政権と政策実行が復活のカギ

 リビアでは親カダフィと反カダフィの両派と接触を保って和平を働きかけ、シリアのアサド大統領に民主化に向けた改革を促し、今年6月には、ヨルダン、レバノン、シリアとともに、自由貿易地域の創設の動きを開始した。今月は、北アフリカ諸国を歴訪し、エジプトで大歓迎を受けた。東は中央アジアから西は北アフリカにまでまたがる動きは、オスマン帝国のルネッサンス(復興)を目指しているかのようである。

 その一方で、2003年のイラク戦争(第二次湾岸戦争)の際、トルコ国会が米軍の領内通過許可をいったん否決(その後、2度目の申請で承認)したことは、故トゥルグト・オザール(1983年~1993年首相・大統領)以来、一貫した親米姿勢を見てきた筆者にとっては驚きだった。

 かつて良好な関係にあったイスラエルとは、昨年5月にガザに向かったトルコの人権団体の船がイスラエル軍に制圧され、9人が殺害された事件等をきっかけに、関係が著しく冷え込んでいる。また、国連総会でパレスチナ自治政府が求めた国家承認決議にトルコは賛成の立場を表明している。

 むろんトルコの好調が今後も続くという保証はない。ムーディーズは、トルコがさらに格上げされるためには、多額の経常赤字やその補填を海外からのポートフォリオ(短期)投資に依存している脆弱性の改善、プライマリーバランスの拡大、債務水準の引き下げ等が必要であると指摘している。ところで長期安定政権と政策実行手腕が復活の要因であるというのは、今の日本にとって皮肉に感じるのは筆者だけだろうか。

黒木 亮
『赤い三日月 小説ソブリン債務(下) 』
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