『赤い三日月 小説ソブリン債務』黒木亮が緊急寄稿
「ハゲタカ」に狙われる欧州の金融危機を横目に、急浮上する「オスマン帝国」のルネッサンス

黒木 亮 プロフィール

 当時、邦銀のディーラーは、ドル資金を取ろうとして欧米の銀行に電話をかけても、銀行名を名乗った途端、相手に電話を切られていた。首尾よく資金を調達できた場合でも1%以上のジャパン・プレミアムを課された。どの銀行がどれくらい傷んでいるか分からないため、お互いに疑心暗鬼になり、マネーマーケットの資金の出し手がいなくなった。銀行は資金が取れないため、国内では激しい貸渋りが起きた。預金者は長銀、日債銀、安田信託銀行など体力が特にないといわれる銀行の支店に列をつくって預金を解約した。

 今、欧州の銀行はECB(欧州中央銀行)から金を借りている。ここ1~2週間、市場では「あそこはECBから5億ドル借りたらしい」、「あそこは7億ドル取ったらしい」という噂が飛びかっている。ECBのドルの貸出金利は現在1.1%なので、ドルの3ヵ月物LIBORに比べると0.75%程度高い。

 それでもマネーマーケットで資金が取れない銀行はECBの門を叩く。預金取付け騒動は発生していないが、ドイツの重電機大手シーメンスは、9月に入って大手仏銀から5億ユーロを超える資金を引き揚げ、ECBに預け替えた。これは一種の預金取り付けといえる。

 世界中から集まってきている不良債権ハンターたちは、今、欧州の銀行が資産を持ちきれなくなって投売りするのを待っている。昨年はドイツの銀行が大量に売ってくるのを期待していたが、あまり売ってこなかったという。

 今は、格下げされ、資金調達で苦しんでいるフランスの銀行が売ってくるのを待っているが、まだ比較的信用度の高い一部の資産しか吐き出していない。理由は、ギリシャのようにデフォルト同然の債権は大幅なディスカウントになるため、巨額の損失を計上する必要があり、体力的に耐えられないことと、入ってくる金が小額なので、資金繰り(特にドルの資金繰り)という点では意味がないからである。

祖国をデフォルトの危機から救った灰色の瞳の女性官僚

 欧州の金融業界ではギリシャはもはや「デフォルトするかどうか」ではなく、「いつデフォルトするか」である。ギリシャの問題は金を借りすぎて返せなくなっていることで、いくら延命しても、消費者金融で借りまくって返せなくなった個人と同じで、債務削減をやるしか手はない。逆にいえば、1980年代から1990年代にかけての中南米諸国や第一次湾岸紛争後のエジプト、あるいは2001年にデフォルトしたアルゼンチンのように、債務削減をやれば国は息を吹き返すのである。

 また、現在の欧州危機は誇張され、市場のターゲットにされている面が少なからずあり、スペインなどは、本来債務のロールオーバー(借換え)ができないような状態ではない。したがってポイントは、EUがいかにギリシャをハードランディング(すなわち債務削減)させ、騒動の火消しをするかということだろう。

 欧州に住んでいてもう一つ感じることは、トルコの急速な存在感の高まりである。1980年代半ばまで自力で資金調達ができず、年率50~100%のインフレに喘いでいたトルコは、「欧州の重病人」だった。わたしは邦銀のロンドン支店で1988年から同国を担当し、毎月のように出張していたが、インフレが激しいためにタクシーのメーターの数字の枠が足りず、空港から市内まで行くときは、何回転したか数えていなくてはならなかった。