『ウィキリークス アサンジの戦争』
著者:デヴィット・リー&ルークハーディング

アサンジにもっとも早く、深く密着した『ガーディアン』が明かした真相

 欧州議会の会見に出席したトレイナーはそこで初めてアサンジを知る。自分以外のイギリス人はBBCラジオの新米記者だけだった。だが会場は満員で、外国人記者も多かった。中にはネタを嗅ぎつけるのに長けたオーストリア人のテレビ局記者もいた。そこでトレイナーは一計を案じる。会見が終わると同時に素早く動き、すぐにアサンジを群衆から引き離したのだ。

 2人は議会場の廊下の人目につかないところで30分間差しで話をした。トレイナーの印象では、アサンジは物静かで、慎重で謎めいた人物だった。会話は知的でウィットに富むが、時には格言めいた答えではぐらかされ、話についていけないことも間々あった。「でも、彼には好感を持ったよ。向こうも気に入ってくれたんじゃないかな」。

「自分は『ガーディアン』の大ファンだ」とアサンジが言うのを聞いてトレイナーは喜んだ。進歩的かつ実績ある新聞社と協力して何かをするという案には前向きのように見えた。

「ウィキリークスは〝200万件〟の生情報をサイトに載せる予定なんだ」

「何の情報?」とトレイナーが訊ねるとアサンジは一言、こう答えた。

「戦争絡みだよ」

 アサンジはトレイナーにブリュッセルで使っている携帯電話の番号を教え、翌日にまた会う約束をして別れた。

 その頃デイヴィスは「ガーディアン」ロンドン本社のあるキングス・プレイス1階のレストランで、気をもみながらラスブリジャーと昼食をとっていた。ときおりリージェンツ運河に停泊するヨットを見おろす。待ちこがれていたメールがトレイナーから届いたのはそのときだった。

 アサンジに会える!

 その晩デイヴィスは「興奮のあまり」一睡も出来なかったという。そのままセント・パンクラス駅から始発のユーロスターに乗って、一路ブリュッセルに向かった。

 列車がケント州の緑溢れる風景を走り抜けていく。車両に座っている間、デイヴィスは「アサンジと話すべきこと」を何度も練りあげた。デイヴィスの考えでは、アサンジは4種類の攻撃を受ける可能性があった。一つ目は肉体的攻撃で、誰かに殴られるか、あるいはもっとひどい目に遭わされるというもの。二つ目は法的な攻撃で、米国政府がウィキリークスを訴えようとしていることなど。三つ目は技術的な攻撃で、米国当局かその意向を受けた者がウィキリークスのサイトを閉鎖するリスク。そして、もっとも心配なのが四つ目の宣伝攻撃---悪意あるプロパガンダ・キャンペーンが行われ、たとえばアサンジがテロリストに加担しているなどと喧伝される可能性があった。

 独力で公開した「米軍ヘリ・ビデオ」の世間での受け止められ方にアサンジが失望していることもデイヴィスは知っていた。世間の憤りを煽るために公開したはずだったが、無実のイラク人が惨殺された事実よりも、ウィキリークスそのものに世界中の注目が集まってしまったからだ。

 他にも不安要素はあった。仮に「ガーディアン」だけが公電を入手、掲載すれば、ロンドンの米国大使館が新聞の発行差し止めを要求するかもしれない。ある意味、イギリスは〝メディアに対して世界一敵意に満ちた法律を有する国家〟であり、危ない寡頭独裁者や「名誉毀損旅行」(訳注 原告に有利な地域へ赴いて名誉毀損訴訟を行う行為)をする人々にとっては天国のような場所なのだ。

 デイヴィスは、実績のあるメディアとウィキリークス、そして可能ならばNGOのような団体も含めた複数による「同盟」が望ましいと考えていた。たとえば、公電の内容が数ヵ国で同時に発表されれば、イギリス国内での新聞差し止めも回避出来るのではないか。デイヴィスは手帳にメモをとる。

〈ニューヨーク・タイムズ/ワシントン・ポスト/ル・モンド〉

〈政治家? NGO? その他興味を持ちそうな団体は?〉

 まずは「ガーディアン」がリークされた公電を調べ、ベストなものを選ぶ。その後、ウィキリークスと「ガーディアン」が連携して他の協力組織に〝メディア・ミサイル〟を渡す。デイヴィスはこの案が気に入った。だが、はたしてアサンジが乗ってくるだろうか。