『ウィキリークス アサンジの戦争』
著者:デヴィット・リー&ルークハーディング

アサンジにもっとも早く、深く密着した『ガーディアン』が明かした真相

 記事はさらにこう続く。

「米国の報道ウェブサイト『ザ・デイリー・ビースト』によれば、オーストラリア人のアサンジは、現在複数の国へ入国を繰り返しており、先週の米兵逮捕以来、ペンタゴンの捜査関係者がその行方を追っている。逮捕された米兵、ブラッドリー・マニングは、バグダッドで米軍が民間人を殺害する場面を撮影したビデオをウィキリークス側に流し、さらに25万件にも及ぶ機密外交公電や情報分析文書を渡したとされている。『文書が公開されれば、国家の安全保障に深刻な打撃を与えかねない』と米国当局は懸念している」

 デイヴィスは驚愕した。22歳の無名の軍人がアメリカの機密軍事データベースの中身をすべてダウンロードしただって? そのマニングは現在クウェートで収監中らしい。何とかしてその公電をウチが入手出来ないものだろうか。デイヴィスが言う。

「地球上で最大のデカいネタだと思った」

 すぐにインターネットで〝ブラッドリー・マニング〟を検索したところ、「ワイアード・コム」がヒットし、元ハッカー、エイドリアン・ラモと彼が行ったチャットの内容が詳しく残っていた。マニングは確かに25万件以上もの機密書類を違法にダウンロードしたことを示しつつ、これらの文書は「米国による犯罪的な政治上の裏取引」だと切り捨てた上で、「ヒラリー・クリントンや、世界中の何千人もの外交官が心臓発作を起こすことになるだろう」と述べている。

 彼の発言が本当ならば、従来の不審な外交交渉や、アフガン・イラクでの戦争犯罪、さらには「神のみぞ知る」新たな事実を明らかにする何万件もの外交公電をウィキリークスが手中に収めていることになる。まさに宝の山だ。

「絶対に大きなネタがある。すぐにわかったよ」とデイヴィスは語る。ネタを探す記者としてのレーダーが激しく動く。だが驚いたことに、英国のメディアで彼以外の誰一人として、この案件が重大な可能性を秘めている事実に気づいていなかった。

 公電の中身へと導くカギはジュリアン・アサンジをおいて他にはない。面識はなかったが、アサンジのウェブサイトは知っていた。2009年にスイス銀行と顧客の脱税に関する事件を「ガーディアン」が追っていたときにウィキリークスにたどり着いたことがあったからだ。

 ペンタゴンはもちろん、他の誰よりも先にアサンジを見つけ出す必要がある。だが、いったいどこにいるのか。「ザ・デイリー・ビースト」の記事では、アサンジはラスヴェガスで公の場に姿を現す予定だったが「警備上の配慮」を理由にキャンセルしている。米国の元諜報部員らが、アサンジの身に危険が迫っていると警告したためだ。手掛かりはほとんどない。

 まずデイヴィスはアサンジにメールを何通も送り続けた。「マニングを助け、22歳の青年が現在置かれている苦境を世界に公表しよう」と持ちかけた。たとえば6月16日のメールは次のように書いた。

「ジュリアンへ。昨日は1日中、『ガーディアン』のオフィスで『今、この星でもっとも重要なニュースはブラッドリー・マニングだ』と話しまくった。するべきことが山積みで、企画を通すにはもう少し時間がかかりそうだ。だが、目下の最優先課題は、ブラッドリーと、君と、ウィキリークスと、そして君たちが公表しようとしている内容について、アメリカ政府が圧力をかけようとしているこの事実を追跡し、白日のもとにさらすことなんだ。この件について直接話を聞かせてもらえないだろうか。もしくは適任者を紹介してくれないか。ブラッドリーに弁護士がいるなら、連絡をとらせてもらってもいい。幸運を祈る。ニックより」

『ウィキリークス
アサンジの戦争』

著者:デヴィット・リー&ルークハーディング
訳:月沢 李歌子 島田楓子
講談社
定価1,890円(税込)
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 一か八かのメールだったが、アサンジからは返事が来た。だが、その内容はとるに足りないものだった。アイスランド議会が国内に報道の自由を保障する「ニュー・メディア・ヘイブン」を創設した件で、ウィキリークスがいかに貢献したかをPRする内容だったのだ。

 デイヴィスは再び「ガーディアン」に出向き、同僚で旧友でもあるデヴィッド・リーに相談を持ちかけた。デヴィッドは懐疑的だった。彼はその年早く、アパッチ・ヘリの件でアサンジと会って話をしたことがあったのだが、例のビデオを手に入れられなかったからだ。彼はデイヴィスに「アサンジは何を考えているのかわからない男だぞ」と忠告し、アサンジが協力する可能性は低いと言ったが、それでもこう付け加えた。「君が挑戦するなら大歓迎だ」。

 その後もデイヴィスは粘り続け、アサンジにひたすらメールを送り続けた。

「君に会うためならどこへでも行く用意がある。君が紹介してくれる人間と会うためであっても、もちろん同様だ。話を進めたい」