大研究シリーズ 他人に聞けない遺伝の秘密

[前半]
週刊現代 プロフィール

「私のように兄弟で灘というケースは少なくないようです。というのも、私が灘を受験するときに、親が兄の担任と話したところ、『お兄さんが灘なら弟さんもまず大丈夫でしょう』と言われたそうですから。

 両親は2人とも高卒です。親と共通しているとすれば、兄も私も数学が得意、というところでしょうか。父は建築関係のサラリーマンですが、一級建築士の資格もわりあいすんなり取れていたようなので、数学は得意でしょう。母は珠算をやっていたこともあって、暗算が早かった」

 結局学力は遺伝なのか。元日本人類遺伝学会理事長で、元東京大学医学部教授の中込弥男氏はその疑問にこう答える。

「現在、ヒト遺伝子カタログ(OMIM)というものがネット上で公開されていて、登録されている数は2万327。そのうち知能に関するものだけで、すでに400以上見つかっています。

 ということは、当然、知能にも遺伝の影響はあります。遺伝子は両親から半分ずつ受け取るわけですから、知能のレベルはだいたい父親と母親の平均くらいになります」

 さらに、別の角度から遺伝子を研究する東京大学の石浦章一教授は解説する。

「一定のIQ以上の者しか入会できないMENSAという国際交流団体があります。彼ら数千人分のDNAと普通の人のDNAを比較したデータがあるんですが、その間には確かに明らかな配列の違いが発見されました。

 ただその違いが、タンパク質をつくる、つまり人間の身体をつくるとされている、遺伝子にはなかった。遺伝子というのはDNAのうちの数%で、残りの九十数%はジャンクと呼ばれる、まだ機能が特定されていないところです。配列の差が見つかったのはそのジャンク部分でした。

 直接知能に影響を与えているかどうかははっきりしないのですが、たしかにDNA上に差は見つかっています」

 だが、灘高校から東京大学医学部に進み、現在は精神科医の和田秀樹氏は異論を唱える。

「学力は遺伝ではなく、実は環境とか、親が勉強のやり方を知っているかどうかで決まると思います。

 僕は席次5番で灘中学に入学しましたが、中1の終わりには、170人中120番台まで落ちてしまいました。入学時に僕より成績が下だった子が上がってきていたんです。そういう子はみんな親が東大や京大出身だったり、医者だったりしました。それで当時僕は、これは遺伝だと思った。

 でも、よく考えてみると簡単な話で、僕の家のような普通のサラリーマン家庭は、子どもが灘に入るとそれだけで浮かれて1年くらい遊んでもいいかな、という雰囲気になってしまうんです。ところが高学歴の親がいる家では、中1からしっかり勉強させる。それが入学後の差につながるわけです」

遺伝かカネか

 保護者の年収が高いほど子どもの学力が高い、という研究結果がお茶の水女子大学の耳塚寛明副学長によって発表されたのは'09年のこと。学力と経済力の相関は、比較的はっきりしている。

 勉強のデキる子とデキない子を分けているのは、遺伝よりは環境ということか。

開成の校門

 実際、開成は私立校ということもあり、保護者もそれなりの高給取りであることが多いという。現在開成高校に通う息子を持つ主婦に話を聞いた。

「保護者会や地域の開成会なんかで会う他所のお母さんは特に変わったところはなかったと思います。ただやはり旦那さんが弁護士とか医者のお母さんは多かったですね。特に弁護士は多くて、もしかすると全体の2割近くいたんじゃないでしょうか」

灘の校門 毎年合格発表では大変な人だかり

 学力は遺伝か環境か、議論は終わりそうにない。

 ただ全体に共通しているのは、「勉強してもデキない子」というのは確かに存在するが、「勉強しなくてもデキる子」はいない、ということだった。当たり前ではあるが、開成の生徒も灘の生徒も、みんなしっかり努力していた。前出の30代灘OBは言う。