大研究シリーズ 他人に聞けない遺伝の秘密

[前半]
週刊現代 プロフィール

 そんな苦労があったから、息子がプロスポーツの世界に進むなら、野球かゴルフのほうが経済的にも成功できると思ったのです。ところが、今の西東京市というのはサッカーが盛んな土地柄で、幼稚園の頃からサッカーの対抗戦があったりする。それで忠成もどんどんのめり込んでいった。もうしょうがないですよね。我々在日の人間が勝ち残っていくには、並の野心や闘争心ではダメ。忠成に幼稚園から柔道をやらせたのも、闘争心を育てようと考えたからなんです」

 プロスポーツの世界は実力がすべて。理不尽な差別への反骨精神があるから、日々の厳しいトレーニングにも耐えられる。在日選手の活躍にはそんな背景がある。

 後の項でも触れるが、運動能力には、体格的な面と体力的な面、さらには球技のセンスなど感覚的な面もある。そして、一流選手の子供たちが活躍するのは、親が小さい頃から指導するという環境も大きい。身長や骨格などは親からの遺伝だということがほぼ明らかになっているが、球技などのセンスの部分は後天的という説が研究者の間では一般的になっている。逆に、走る・跳ぶ・投げるといった基礎的な運動能力は遺伝するという見方が多い。

 李忠成などはヒザ下の柔らかさという身体的特徴もさることながら、父から伝わった闘争心で、一流の仲間入りをしたのだろう。

 双子はコメントまで似る

 最後に100%同じ遺伝子を持つ一卵性双生児の話を紹介する。語るのはともに漫画家の兄・かわぐちかいじ氏と弟・川口協治氏(ともに62歳)だ。まずは兄のかいじ氏の話。

「2人で中学の時に、黒澤明の映画『用心棒』を観て、衝撃を受けてね。シナリオが掲載されたキネマ旬報を買って、何度も読みました。2人とも頭の中でストーリーを組み立てるのが得意だったんですが、これはお袋の存在が大きい。お袋が厳しくて、門限を守らずに遊んでいたら、物凄く怒られる。でも、怒られると分かっていても、つい2人で遊んで時間を忘れてしまう。それで、家に帰る道すがら、必死で母親への言い訳になるストーリーを考える。どう言えばリアルになるか設定を話し合ったりしてね。やっぱり、発想も似ているんですよ」

 次いで協治氏の話。

「子供の頃から2人とも好きなものが似ていました。特に絵は大好きで、近所の子供たちが野球で遊んでいるのに目もくれず、2人して地面にクギを使って絵を描いていた。絵を描く場合でも、戦艦の絵を描くのに普通の子供のように真横から描かず、兄も私も斜めから描いたり、下からあおって描いたりしていた。相談したわけでもないのに、アングルまで似ていましたね。そう言えば、黒澤明の『用心棒』に強いショックを受けて、キネマ旬報に掲載されたシナリオを2人で毎晩のように読んだ時期もありました。兄はその後もシナリオライターの本を読み漁っていたから、それが今の作風にも影響していると思います」

 2人はそれぞれ別に取材したのだが、同じ黒澤明のエピソードが出てくるあたりは、さすが一卵性双生児ということだろう。2人からは「母方の祖父は絵がうまかった」という共通のエピソードも語られた。なお、双子でも違うと思うところはどこかという質問に、それぞれこう答えている。

「僕のほうが粘り強いというか、執念深いところがある」(かいじ氏)

「かいじのほうが根気があり、粘り強く続けていくタイプ。これは母親譲り。自分はひらめき型で、父親の性格を受け継いだのでしょう」(協治氏)

 もはや、2人の遺伝について言うことはあるまい。

 各界の才能の持ち主たちの話を聞いていて分かったことは、突出した存在になるには、どれか一つの才能が秀でているだけではダメだということだ。たとえば、科学的には未解明だが、南淵医師の空間認識能力などは、特殊な能力が兄弟間で共通していることを見ても、遺伝の可能性を感じさせた。それでも南淵医師が持って生まれた才能だけで天才と呼ばれるのではないことは、年間200例以上の手術で技術を磨いてきたことからも明らかだろう。

 発明家エジソンは、「天才とは1%の才能と99%の努力である」との言葉を残したが、今回、紹介した人たちもまた、人には言えぬ努力を重ねてきたことは間違いない。

 前出の根岸氏も遺伝や素質だけでは、真の才能は生まれないと言う。