大研究シリーズ 他人に聞けない遺伝の秘密

[前半]
週刊現代 プロフィール

 最近はプロ棋士同士で結婚される方も多く、生まれたお子さんがまたプロ棋士を目指すケースも増えてきました。棋士の世界では親が子供に直接、教えるということはあまりなく、他の先生に預けて鍛えてもらうのが一般的ですが、親から習ってもいないのに、・棋風・は親子で似てくることが多いんです」

 顔や体格が似るという次元とは異なり、科学的に証明することは難しいだろうが、遺伝の不思議を感じさせる話だ。

天才外科医と呼ばれる南淵医師

 もう一人、言葉では表現しにくい独特の「感覚」と遺伝との関係を語る人物がいる。心臓外科の世界で天才外科医と呼ばれている南淵明宏医師(52歳、大崎病院東京ハートセンター・センター長)である。外科医には「神の手」と称される名医がいるが、彼らは普通の外科医とどこが違うのか。

「私は普通の人より空間認識能力に恵まれているんだと思います。たとえば、『明日は大変な手術がある』という日は、寝床で目を閉じると頭の中に、ごく自然に心臓の3D画像が浮かび上がってくるんです。

 そして、その画像をあらゆる角度から覗きこむように、頭の中で自在に回転させることが、ほとんど無意識にできる。その頭の中の画像で『ここはこうなっているから、こうやって。ここは10針くらい糸をかけて……』といった具合に繰り返し、翌日の手術のシミュレーションをするのです。

 こういう感覚は持って生まれた能力で、子供の頃から変わりません。友人の家に遊びに行って、次にまた遊びに行くとき、まったく違う道を通ってもちゃんと目的地に着ける。一緒に行った友人は『どうして、通ったこともない道を知っているんだ?』と不思議がるのですが、私の頭の中には常に東西南北と距離感が入っているので、一度行ったところは迷いようがない。

 同様の才能は兄にもあって、子供の頃、兄弟でプラモデルを作るのに2人とも設計図なしで、部品だけを見て、あっという間に組み立てることができました」

 南淵氏は自分の親にも同じような空間認識能力があったかどうかは分からないと言う。ただ、性格的には父親と非常に似ている面があり、それが心臓外科医としての仕事に大いに役に立っているそうだ。

「私の父は無茶なところがあって、神戸大学の経営学部を出たのに『みんなが就職するなら、俺は就職しない』と、自分で事業を立ち上げた人でした。そういう自分を修羅場に置いて楽しむような性格は、明らかに私に受け継がれています。心臓の外科手術は、ちょっとした手違いで患者が亡くなるかもしれないという猛烈なプレッシャーの中で行わなくてはならない。私はそういうプレッシャーがかかったほうがやる気が出るタイプ。医者の世界では二代、三代と続く家系が珍しくないし、そういうお医者さんは几帳面で、優等生的な人が多い。私とは正反対なんですね」

李忠成の父も元サッカー選手

 ここまでは親の持つ「天賦の才」が、子供に遺伝するかという観点で話を聞いてきた。逆に、才能ある子供の親を見て、遺伝による影響を感じるケースもある。サッカーアジア杯決勝のオーストラリア戦、延長後半で劇的な決勝ボレーシュートを決めた日本代表の李忠成(25歳)はその典型だろう。李の父・李鉄泰氏(52歳)も実業団チームの元サッカー選手だった。鉄泰氏が語る。

「喜怒哀楽の表し方や、負けず嫌いの性格など、忠成と私が似ている点はいろいろあるんですが、身体能力で言えば、彼は子供の頃から天性と言えるヒザ下の柔らかさを備えていて、そこが私と一番似ていましたね。まだ、幼稚園児のくせに、ボールを止めて蹴るという動作が楽々とできたのも、ヒザ下が柔らかかったからでしょう。ブラジル選手のように、リズミカルでしなやかな忠成のプレースタイルは、実業団選手だった私の目から見ても『この子は、いずれものになりそうだな』と感じさせるところがありました」

 ここで少し李親子の話から外れるが、一流のスポーツ選手に在日コリアンが多いことにも触れておこう。もともと、日本民族と朝鮮民族の遺伝子にはほとんど違いがないことが分かっている。つまり、在日コリアン選手の活躍は遺伝よりも環境の要因が強いということだ。鉄泰氏もこう語っている。

「忠成が生まれたのは、私が現役を辞めて5~6年経ったころでした。私は子供にはサッカーをやらせるつもりはなかった。我々の時代はJリーグもなかったし、実業団でも強豪は一流企業ばかり。残念ながら、私ら在日はそんな会社には入れない。今で言う助っ人外国人のような扱いで、外国人や在日選手と契約していたのが読売や全日空がスポンサーをしているチームで、私は全日空が資金援助していた横浜トライスターと小遣い程度のおカネで契約したんです。