大研究シリーズ 他人に聞けない遺伝の秘密

[前半]
週刊現代 プロフィール

粘り強さは遺伝する

 次に、偏差値などの数値では計れない芸術的センスだが、これが遺伝しているとしか思えない芸術一家もある。千住家3兄弟はその典型だろう。長男の千住氏(53歳)は京都造形芸術大学学長にして日本画家。次男の千住明氏(50歳)はドラマやアニメ、CMなど幅広いジャンルで活躍する作曲家。長女の千住真理子氏(48歳)は著名なバイオリニスト。それぞれ異なる分野の第一線で活躍している3兄弟の「共通項」について千住氏はこう話す。

「我々は絵画、作曲、バイオリン演奏とやることは違っています。でも、自分の中にある伝達困難なことを何とかして他者に伝えようという熱意は兄弟全員に共通している。芸術というのは、その伝えるという行為にどれだけ熱中できるかが大事なんですね。

 子供の頃で言うと、僕の弟も絵はうまかったのですが、のめり込むほど好きというわけではなかったし、妹は絵に興味がなかった。一方、僕もバイオリンを弾いていましたが、妹ほどはのめり込めなかった。結局、3人とも自分の好きなものにのめり込んで、集中し、そこから何か伝えたいものが生まれてきた結果として、いまの僕らがあるんです」

 3兄弟の父は、経営学のバイブルとされる『経済性工学の基礎』などを著した慶応大学名誉教授の故・千住鎮雄氏。母はエッセイストで教育評論家の千住文子氏である。

 両親の経歴だけ見ると芸術肌というより、学究肌の子供が誕生しても不思議はなさそうだが、氏によれば、親から受け継いだ最たるものは「熱中する才能」だったと言う。

「僕の父は芸術には興味のない人でしたが、何かに熱中することは人一倍でした。小学生の僕が家に帰ると、必ずと言っていいほど、机に向かって仕事に没頭している父の姿が目に入ったものです。祖父も医学者で大学教授でしたが、自室にはビーカーが並び、家にいるときも寸暇を惜しんで研究に打ち込んでいました。

 芸術は伝えたいという熱意だと言いましたが、学者も広い意味では同じだと思うんです。数式で真理を解き明かし、世に伝えたいという気持ちがある。その伝える手段というのが、僕の場合は絵であり、弟や妹の場合は音楽だったのです」

 一つの物事に熱中する才能は、粘り強さに通じる。心理学では遺伝性の要因が強い人間の傾向を「気質」と呼び、後天的な要素が強い「性格」と区別しているが、粘り強さ=持続力は「気質」に分類され、遺伝すると考えられている。

 東京大学の石浦章一教授が語る。

「病気のように人間にマイナスの影響が出る遺伝子というのは見つけやすいのですが、現在の研究では知能に関係する遺伝子はいくつかあると言われているけれど、頭のいい人を調べてもよく分からない。おそらく数百個の遺伝子の組み合わせで頭の良さが決まっているのではないかと思われます。芸術的才能も同様で、後天的だろうというのが今のところの大勢です。ただ、音楽については遺伝要因があるかもしれない。リズムが取れない家系というのは存在しますから」

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 では、本人にも説明できないような「ひらめき」や「直感力」は遺伝するのだろうか。こうした要素が勝敗に大きく作用するのが囲碁や将棋の世界。日本棋院棋士会長の小川誠子6段(59歳)の話は興味深い。

「囲碁の場合、すでに4~5歳でセンスのあるなしがハッキリ分かります。その年頃の子供は石で囲った地がどちらが多いかなどの計算はできません。なのに、センスのある子はカンでどちらが勝っているか分かってしまう。そういう子供は、いいポイントにポンポン楽しげに打っていたかと思うと、要所要所では打つ手を止めて、ジッと考え込むこともできる。どこが勝敗の大事なポイントなのか、本人が何かを察知するから、考え込むわけです。これは教えたからできるという類のものではありません」

 プロ棋士になるには、本人の先天的な能力というものが大きいようだ。さらに小川氏は・棋風・について語った。

「こういう能力を持った子供たちがプロを目指して、囲碁の先生の元に集まり、道場で内弟子生活を送りながら、切磋琢磨して囲碁を習っています。興味深いのは全員が同じ指導を受けているのに、・棋風・はみんな違うことです。囲碁は環境によって後天的に打ち方が変わってくるというより、本人が持って生まれた資質や考え方のほうが碁盤に出やすい。