『招かれざる大臣 ~政と官の新ルール~』 著者:長妻 昭

 民間企業であれば、とうに倒産してもおかしくない状況だろう。しかし、幹部や職員の危機意識は思いのほか、希薄だった。そこに私は強い危機感を持った。

 前例を踏襲すればそれで良い。仕事は非効率のまま。情報は上げない---。こうした感覚が当たり前だった厚生労働省は、私が経験したことのない、別世界のようだった。

 そこで、私が目指した目標は、大きく二つである。

 一つは、古い役所文化を変えるということ。巨大官庁である厚生労働省の役所体質を変えれば、それは直ちに霞が関の行政の改革に直結する。無駄の発生も抑えることができる。そんな確信があった。

 大臣に就任して、驚いたのは朝礼が無い、ということだった。これまで大臣と全局長が一堂に会する機会は、年に数回しかないというのだ。

 これではどうやって大臣、副大臣、政務官の政務三役と意思疎通を図るのか。

 まずは毎週月曜日に、大臣ら政務三役と、局長以上のすべての幹部との朝礼を定例化することから始めた。

 局長に、各局の懸案事項や課題を順番に報告してもらった後、政務三役と意見交換する。最後に局長には、持ち回りで「私の厚生労働省改革私案」と題する意見を発表してもらった。

 もう一つ私が目指したことは、「少子高齢社会を克服する日本モデル」という10年後を見据えた福祉ビジョンを策定し、財源も含めて国民と意思を共有していくということだった。

 世界で最も少子高齢化の進んだ日本で、世界のお手本となる福祉モデルを実現することは急務だ。財源については、内閣の一員である国務大臣として、消費税の引き上げを、国民に納得される形で打ち出していく。そのためにはまず、厚生労働省の信頼を取り戻すことが肝心だった。

 私が目指した二つの目標のうち、古い役所文化を変える点については、省内に役所の体質を変えるための組織や人事評価の仕組みを数多く埋め込んだ。今後、確実に役所の体質は変わっていくと考える。

 もう一つの目標である福祉ビジョンは、今、その策定が政府と与党で進められている。内閣はその意思を鮮明にした。

 ちょうど1年間の大臣経験を振り返ってみると、胸を張って達成できたと言えることもあるし、忸怩たる思いもある。霞が関という巨大な壁を前に悄然としたこともあるし、私の目指す改革に理解を示してくれる官僚との出会いに感激したこともある。