日本史ミステリー・宋銭普及の鍵をにぎる「ドル化」「貨幣の三機能」そして「北朝鮮デノミ政策」

 前回、「日本では平安時代末期から宋銭が普及していた」という話をしましたが、これに関して、「当時の日本は自国通貨を放棄して、中国・宋の経済圏に入っていたのか?」
という質問をたくさん受けました。

 たしかに、現代的な視点で見れば、そう考えてしまうのももっともです。

 ドルを国内に流通させている国(パナマやエルサルバドルなど)は、自国の通貨を放棄しているため、当然のことながら通貨政策を行うことはできません。(*1)

 これは国力を弱めることのようにも見えますが、国内にドルが流通することによって、アメリカからの投資を受けやすくなる、という効果もあります。

 つまり、その国の事情によっては「ドル化」もあながち悪い政策ではないのです(逆にアメリカは、「自国の通貨政策が直接他国に影響を及ぼすことにまで責任が持てない」と反対していますが・・・)。

日本では、輸入する宋銭を"取捨選択"していた

 しかし、宋銭の流通は、現代の「ドル化」のような状態ではありません。一見すると日本に主導権が無くなったようにも見えますが、ちゃんと独立性を保っていたのです。

 その証拠に、中国で実際使われていた宋銭には1枚=2文(*2)、または1枚=10文といった「大銭(たいせん)」が存在しているにもかかわらず、日本では1枚=1文の一文銭しか流通しませんでした。

 現代で例えるなら、貨幣がなぜか1円玉しか流通していない、という状況でしょうか。

 もし日本が宋の経済圏に組み込まれていたなら、自然とすべての種類の銭が普及していたはずで、一文銭だけしかないというのは不自然です。

(*1)このように、自国の通貨を廃止し、アメリカ-ドルを国内流通通貨とすることを「ドル化」(ダラライゼーション)といいます。
(*2)中国や日本では古来より、銭の単位として「文(もん)」が使われています(銭を数える際、刻まれた文様を数えたことが由来になっています)。ちなみに足の長さを測る単位としての「文」は、銭の直径2.4cmを1文として測定したことが由来です。ジャイアント馬場の「十六文キック」は16文、すなわち38.4cm・・・というわけではなく、「16」はアメリカの靴サイズの表記で、実際の足の大きさは32センチ前後(約14文)だったそうです。

 また不思議なことに、通常の一文銭にまじって、直径がやや大きな「大銭」をわざわざ削って一文銭の大きさにしたものが稀に発見されているのです。

 こうしたことからわかるのは、日本は輸入する宋銭を意図的に"取捨選択"していた、ということです。中国の貨幣を国内に流通させながらも、中国の貨幣ルールからは完全に距離を置くことで、その経済圏に入らず、独立性を保とうとしたと思われます。

 ただ、輸入する宋銭を"取捨選択"した真の目的は別にあったかもしれません。

 この【第二部】宋銭編の終盤では、この謎にも挑んでいきたいと思います。

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