「日本人はバカになった」は本当か

世界が嗤っている
週刊現代 プロフィール

「このシステムのおかげで、少しわかりづらいが高度で質が高いという授業を誰もできなくなってしまい、結果として大学の質の低下を招いてしまっています」

 さらに川成教授は、別の問題にも言及する。

「最近では学生の名前を『さま』づけで呼ばなきゃいけない大学もあると聞きますが、大学にとって入学してくる学生はお客様になっている。この『お客様待遇』が問題なんです。入学してから卒業するまで、傷をつけずに大切に社会に送り出してあげなければならない。

 いま、学部長に選ばれた教授が一番最初にやらなければならないのが、警察まわりです。最近、大学生が事件を起こすことが多くなりましたが、『事件が起きたときには、どうか大学名と学生名を公表しないようにしてください』と、所轄の警察署とそこに詰める記者クラブにお願いにあがるんです。これが学部長の仕事とは、悲しくなってきます」

 経営維持のため、大学は少しでも学生に居心地のいい環境を提供し、入学者を増やさなければならない。山田教授は「全国の大学が一斉に卒業のハードルを上げなければ意味がない」と強調したが、学生に対してここまで低姿勢になっている大学が、この「正論」を理解するには、長い時間を必要としそうだ。

大人も笑っていられない

 学生の「劣化」に呆れたくなる気持ちはわかる。しかし、それはあまりに無責任すぎる、というのは教育評論家の尾木直樹氏だ。

「子どもたちは、大人の教育政策に振り回されている被害者です。そもそも、これまで大人が『学力とはなにか』を真剣に議論してこなかったことに問題がある。日本では、いまだに詰め込み型の教育が重視されているが、世界の教育では、学力とは『持っている知識をいかに活用するか』だと考えられているんです。それを鑑(かんが)みず、いまだに詰め込み型の学習が正しいと信じて、子どもに知識偏重の学習を強いている大人のほうがバカなのではないか」

 実は、大人もバカなのだ―。尾木氏は大人の責任を追及するが、確かに大人が学生のことを笑っていられるのはいまのうちかもしれない。いま、世界では「大人の学力」を測ろうという動きが盛んになっている。

 その代表的なものが、OECD(経済協力開発機構)が実施する「PIAAC(ピアック)」―国際成人力調査だ。この調査について、文部科学省職員が説明する。

「国際的に労働市場が流動化するなかで、各国の大人がどれだけの能力を持っているのかを測る必要があるのではないかという議論がでてきました。そこでOECD加盟国(日本、アメリカ、イギリス、フランス、韓国、フィンランドなど)で、16歳から65歳を対象とした調査を行い、ビジネススキルや基礎学力を測ることになったんです。

 具体的には「読解力」「数学力」「ITを活用した問題解決能力」が調査対象で、文章や図表から情報を読み取り、それを活用する力があるかどうか、さらに普段どんな新聞、雑誌、学術論文を読んでいるかなどについても回答してもらう調査になる予定です」

 PIAACは今年4月より予備調査が開始され、2011年に本調査が行われる。その2年後の2013年に結果が発表されるが、この文部科学省職員は、「2013年、日本はPIAACショックに襲われることになるかもしれない」と危惧する。

 義務教育修了段階の15歳を対象とした国際学習到達度調査(PISA)が'06年に行われた際、日本は「科学的応用力」で6位、数学的応用力で10位、読解力で15位とふるわなかった。