2011.01.18

ハーバード大学教授 マイケル・サンデル
「これまでの私の人生の話をしよう」

2011「白熱教室」スタート!

 ところが夏が終わると、支局長が私にこう言ったのです。「これほどおもしろい事件はもうないだろう。おれはこれをカバーしたら、もう引退する。これより興味深い事件は起きないだろうから、記者をやっていても仕方ない」。支局長はまだ50代半ばでした。

 その言葉に驚いた私はたずねました。「ジャーナリズムの世界はもう頂点に達して、あとは落ちる一方という意味でしょうか」。支局長はそれを否定しませんでした。そのとき、私はジャーナリストへの道には進まないことを決意したのです。

 大学を卒業しても自分が何になりたいか、はっきりしなかった。そこでローズ奨学金をもらい、(イギリスの)オックスフォード大学に行って社会政治理論を学ぶことにしました。この間は将来の仕事のことを何も考えずに授業に出たり読書したりすることができた。その時点で私は初めて哲学を勉強しました。哲学の講座をとり、読書三昧の日々を過ごしていたのです。

 一時は法律を学ぼうと考えたこともあります。しかし、政治哲学をやればやるほどはまっていき、アリストテレス、カント、スピノザ、ヘーゲルや現代の政治哲学者について研究しました。結局4年いて、博士号を取得した。そのときの論文が後に私の最初の本となります。だから、私の人生の転換期はこの大学での4年間だと言えるでしょう。

自分なりの答えは持っている

 1980年から、助教授としてハーバードで教えることになりました。私は大学生のとき、哲学を理解できませんでした。だから自分が学生だったら、どのように授業を進めたらわかりやすいかを考えながら講義内容を構成していくことにしました。

 最初は学生が100人しかいなかったので、小さい教室で教えていましたが、2年目には300人にもなった。そこで少し大きめな教室に移り、3年目には500人に増えたので、この講堂に移らざるを得なくなりました。いまは800~1000人の学生がこの講座に登録しています。

 この授業で私は学生に自分で深く考える力を身につけてほしいと思っています。いろいろな立場の哲学者の考えを知ることで、学生たちの思考は深まるはずです。自分で考えることがどれくらい難しいのかを、教えることも授業の目的のひとつです。

 学生たちは私の授業でメモを取っていますが、ただ文字を書いているだけではありません。彼らは哲学者と議論しています。お互いの意見を尊重しながら、私とも議論し、学生同士でも議論しています。それが民主主義社会ではとても重要なことなのです。とくにお互いに意見を異にするとき、その意見を尊重し合うことは重要だと思います。

 議論するテーマはもちろん私が決めています。そのために日頃からニュースに耳を傾け、新聞や雑誌に目を通します。政治哲学のテーマとして適していると感じたものがあれば、すぐにメモを取る。たえず問題意識を持っていなければなりませんが、それはとても楽しいことでやりがいのあることです。

 昔の問題ではなく、いま起きている問題を扱うことが重要だと考えています。そういった問題には、学生たちがすでに直面している、あるいはこれから直面する可能性があるから、彼らがよけいに真剣に取り組むと思われるからです。

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