〔新聞の現在と未来〕いかに新しい読者をつかむか―――
朝日新聞編集センター長が見る「新聞の現在と未来」

「成長産業ではないことは、よく承知しています」

朝日新聞社
「朝日新聞」は明治十二年創刊。編集センターは記者原稿を整理し、紙面を編集する

 朝日新聞東京本社編集センター長、尾形俊三(としみつ)は、語った。朝日新聞では、かつて整理部と呼ばれていた部署を、編集センターと呼んでいる。

 産経新聞が無料でiPhoneに全紙面を提供している事をどう考えるか、という問いにはこう答えた。「ネットはもちろん無視できないが、課金できるのか、というと難しい。いずれにしろ、各社とも対応を模索しているし、必ずしも同じことをやっても成功はしないでしょう。特に総合紙は、特化することが出来ないから難しい。日経さんは若い女性の読者をつかまえていますね。電車のなかでも、女性で新聞をもっている人は、みんな日経ですね。うちは三十代から四十代をターゲットにしているのですが。若い人をどう取り込むかが課題ですね」

 尾形は、昭和六十二年に編集センターに配属になった。それから二十年以上勤めている。

「昨日まで取材で走りまわっていた人間が、その日から見出しをつけるんですからね」

 尾形が配属された頃、すでに編集の電子化がはじまっていたという。

「その頃はまだ、整理マンの神話が残っていたんですね。地下の組版工場に走っていって、ワイシャツを汚さないで帰ってくるのが優秀な整理マンだと云われていた」

紙の新聞を作るのと同時にウェブページを作る

 今の編集システムになったのは、平成十七年からだという。

「編集者自身が、PCを操作して紙面を作れるようになりました。影響ですか? ちょっと新聞記者から技術者に近づいてきたのかもしれません。とにかく一人でかなりのことが出来るようになったので」

 そこからどんな変化が起きたのだろう。

「基本はスピードアップですね。版を組み替えるのが早く出来るようになりました。朝刊にも遅い時間のニュースが入れられるようになりました」

 ミスも少なくなったという。

「直すのが早いですからね。活版の時は、組み替えるのに手間も時間もかかったけれど、今は気づいたら瞬時に直せる。質の向上には寄与していると思いますよ」

 一方で、ウェブのアサヒ・コム用の原稿も増えている。

「二年前から、編集センターからニュースを速報するようになりました。編集者は、紙の新聞を作るのと同時に、ウェブのページを作るわけです。もちろんネットのみの配信という記事もありますし、ネットでアクセスが多かった記事を紙に転載することもありますね」

 ネット上の記事の特性は、どう捉えているのだろうか。

「まずは、速報性です。とにかく一行でもいいから、ネットに出してくれ、と云っています。それと、ネットには紙幅の制限がない。だから、記者会見の全文掲載なんていう事が出来るわけです。それから、ネットでは、紙面での軽重というのは関係ない。紙のバランスとは、まったく違うわけです。三面記事的なものが、ネットには必要なんですね。東京で発行する新聞には載らない地方の記事でも、面白ければネットには載せるということがよくあります」

 かつてに比べて、紙面で一番変わった点はなんだろうか。

「昔に比べると、記事を簡潔に短くする努力が求められるようになりましたね。新聞はどこもそうですけれど、活字を大きくしているので。その分、掲載できる分量が減っている。そのなかで、事実であることと、観測などそうでないものをしっかり分けなければなりません」

 紙面の構成は、変化したのだろうか、という質問に尾形は、「変わったかと云われれば、変わらない」と答えた。

「メニュー自体は変わりませんね。もちろん新しい試みはあります。平成十九年の四月から政策面を作りました。かつて政治記事というのは、極端に云えば政治家の人事だったわけですね。それにたいして、今は政策のプロセスを読者に伝える事に努めています」

 朝日新聞は、一報記事を二面、三面に入れない。

「それがうちと他紙の一番違う点でしょうね。二面、三面は、基本的に解説、説明の記事ばかりです。新聞は、テレビやインターネットに速報性ではかなわない。だから、厚く、丁寧に説明記事を入れるわけです」

 けれども、解説記事が多くなると、生々しさが失われるのでは。

「たしかに、二、三面は、予定調和的になりますね。そうなると雑誌的になってしまう。生なニュースの切り取り方は大事ですね」

 ニュースの扱い方は、どう変わったのだろうか。

「象徴的なのは、昨年の酒井法子被告の事件の時ですね。ああいう芸能ネタを、一面にもってくるというのは、昔なら考えられませんでした。実際、読者の方から批判もありましたよ。朝日までが、というね。もちろん、共感していただけた方もたくさんいらっしゃいましたが」

 生活を重視する視点からの記事も増えている。

「やはり、読者を意識していると『暮らし第一』という視点は動かせない。あと、朝日新聞も女性の社員が増えているんですよ。今の新入社員は四〇パーセント近くになっているんじゃないかな。そうすると女性からの発想、価値観というのは、当然、紙面に反映されますからね」

 こうした変化のなかで、クオリティ・ペーパーとしてのアイデンティティはどうなっていくのだろう。

「クオリティ・ペーパーと云っていただけるのは有り難いのですけれど。ただ、いつも考えていることは、質が高くても、易しく、解りやすく書くことは出来る、という事です。朝日は目線が高い、という批判をよく戴きます。これにはきっちり対応していかなければならないと思っています」

 朝日新聞は、土曜の朝刊にbe、月曜の朝刊にGLOBEを別刷りでつけるようになった。

「beは、やわらかいテーストで新聞に親しんでもらう紙面。GLOBEは、外信記事を中心にした、堅い、クオリティ・ペーパー的な位置づけですか。ただし、絶えず見直しはあり得ます。お金がかかるけれど、広告が入るのか、という懸念も、当然あります。beについては、夕刊の中味をどうしていくのか、という問題とも密接に関わっています」

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