鍵山秀三郎イエローハット創業者
心が澄んでくる「そうじ」のやりかた

セオリー

 森繁さんは上下の別なく、誰に対しても態度を変えない希有の人物でしたね。自己中心的で他人や弱者の痛みがわからない人も、結局は心がすさんでいると私は思うのです。そして痛めつけられてきた人もすさんでいきます」と鍵山氏は言う。

「私が独立して自転車での行商からローヤル(イエローハットの前身の会社)を始めたのはちょうど高度経済成長期で、ひどい人材不足だったんです。そんななか当時は二流三流と見られていた自動車業界に来るのは"渡り鳥"、つまりいろんなところでつらい目に会って荒れた人たちばかりなわけです。私は社員の心をなんとか穏やかにしたい。

 が、言葉や文章ではむりだ、自分の態度や生き方で示すしかないと思いました。そこで職場をきれいにしようと、やはりトイレそうじから始めたんです」

 いくら小さな会社とはいえ、社長自らトイレ清掃とは前代未聞。社員はどう反応したのだろう?

「好きでやってるのかという程度で、まぁ、無関心でしたね。でも私は見返りを求めているわけじゃありませんから、社内そうじも洗車も毎日徹底しました。平日のそうじは業務外の早朝か夜なのですが、夜中に泥棒と思われて警察に踏み込まれたこともありますよ。日曜は家族4人総出で洗車をし、幼い娘なんか冷たい水で手を真っ赤にしながら手伝ってくれましたね」

とり戻したい 日本人が失った温かさ

 だが簡単に社員の意識が変わったわけではない。

「こちらがなにも言わないのに自発的に手伝うようになるまで、10年かかりました。まず洗車、廊下、そして最後はトイレまでいきましたね。そのころには来店するお客さんが『君の店はよそとはちがう』と言ってくださるほど、社員は表情も気持ちよく、心からのサービスができるようになっていたのです」

そうじを始めたのは心のすさみをなくすため

 なんでもないそうじを続けて人の心を澄ませるに至った鍵山氏は『凡事徹底』を提唱するが、机上の訓言ではないだけに説得力がある。

「今では社員のそうじ活動は社外にまで広がりました。新入社員にトイレそうじは体験させますが、毎朝のそうじは規則ではなく自発的なもの、参加できる社員でしています。

 中目黒にある自社からR246、駒沢通りあたりまで半径約2.5キロの道路や公園のゴミを拾い、10種類以上の資源ゴミに細かく分別するんです。ゴミ専用の倉庫も作ったし時間も手間もかかりますが、利益をあげる以上、それを社会に還元し役立てなければ企業としての意味がありません」

中学生と膝を交えてトイレそうじの指導をする鍵山さん。京都市内の中学校での一コマ

 社員ぐるみのそうじ活動は徐々に評判となり、とくに"素手"による徹底トイレそうじに驚き感動する人が多かった。

 平成3年には鍵山氏と賛同者35名から『日本を美しくする会』が生まれ、そうじ実践隊の『掃除に学ぶ会』は現在全国122ヶ所のほか、ブラジル、台湾、中国、NYなど海外にも発展している。