がんになって考えたこと、思うこと

 しかし、1週間ほどすると現実が見えてきて、今度は不安感が現れ、落ち込んでくる。さらに1週間ほど経つと、直面している問題に対応できるようになり、「なんとかやっていこう」と事実を受け止めて解決策を見出すようになっていく。だが、中にはそのように気持ちの切り替えがうまくいかず、適応障害やうつ病になる人が、患者全体の3割程度に上るという。

 これまで数百人にのぼるがん患者や家族に会い、その悩みに向き合ってきたNPO法人「がん哲学外来」の理事長であり、順天堂大学医学部病理・腫瘍学教授の樋野興夫氏は、こう話す。

「医療が進歩し、病状によっては治ることが多くなってきたがんですが、やはり死への不安を抱く人は多い。お金持ちだろうが、地位や名誉を手に入れていた人であろうが、がんと告知されたことでそれらすべての価値がなくなってしまうのですから」

日本共産党 書記局長/市田忠義氏

 一方、がんと告知されてもすぐに事実を冷静に受け止められる人もいる。日本共産党書記局長の市田忠義氏(67歳)は9年前、S状結腸がんが発見された。

 便秘や下痢を繰り返す、腹痛などの症状はあったが、ストレスが原因だと思っていたので、まさに青天の霹靂だった。

 ステージはⅡとⅢの間くらいで、「放っておくと進行してしまうから、即手術をしないといけない」と告げられた。そのとき市田氏は、「仕事や家族のこともあるので、命があるかどうか、それだけを教えて下さい」と医師にたずねたという。

「私はわりと気の弱いほうで、神経質で気にする性格のはずなのですが、宣告のときはなぜか冷静に受け止められた。そして医師から『手術が成功すれば、100%とは言わないまでも、ほぼ命に別条はない』と説明され、安心したのです。

 ただ、転移だけは心配でした。入院中から、大腸がんに関する本を読み漁りました。もし転移していたら書記局長の仕事は辞めなければいけないと心配したのですが、術後に転移がないことがわかって安心しました」

 入院が決まったとき、患者はすでにがんを現実のものとして受け入れているが、そこで新たな悩みが生じる。「医師から提示された治療法は本当に正しいものなのか」というものである。

 立命館大学応用人間科学研究科の教授で、臨床心理士でもある高垣忠一郎氏(66歳)は、11年前に早期の前立腺がんの告知を受けた。医者は「このがんの状態なら、全摘手術がスタンダードです」と告げたが、高垣氏はすぐ手術することを拒んだ。それには、二つの理由があった。