生産台数500台がすでに完売したトヨタ渾身のスーパースポーツ、レクサスLFA。そして1967年当時、トヨタの持てる力を結集して作られたトヨタ2000GT。はたしてこの2台はどっちが上なのか? 国沢光宏がサーキットで試乗し、判定をくだす!
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ニュル24時間レース仕様車のハンドルを握るまで関心薄かったLFAながら、乗ってびっくり! 予想していたより圧倒的に楽しいクルマだったからだ。
正直なハナシ、トヨタがこんな官能的なクルマを作れるなんて思ってもおらず。「やっぱし成瀬さんの夢だったのね」と感じ入った次第。ただLFAの「ウリ」である9000rpmは試せなかった。
リミッターで75000rpmに抑えられて「これからだぜ!」というあたりでオシマイでございます。
今回ハンドル握ったのは最終試作スペック。もはや量販モデルと同じ仕上がり具合ということもあり(間もなく市販車の生産が始まる)、1コーナーの進入を200km/h(!)に抑えてほしいという以外、なんの制約もなし! 思う存分アクセル開けて味わってほしいという。
実際、自分で思いきり走らせただけでなく、開発ドライバー、飯田章選手の助手席で限界性能もチェックできた。
さて今回のテーマである「時空を超えた世紀の対決」をさせてみたい。
●エンジンフィール(官能度)
トヨタ2000GTの6気筒は、OHVも当たり前だった当時の水準からすれば飛び抜けて強力。2ℓエンジンが80ps程度の時代に150psを発生させていた。
されど世界の水準はすでに200ps級。150psが日本のエンジン技術の限界だったのだろう。
いっぽう、LFAのエンジンはリッター115ps。しかも9000rpm回る。7500rpmから上の気持ちよさときたら筆舌に尽くしがたし!
完全に重量バランスを取って組み立てられたエンジンは、9000rpmでも不快な振動なし! というか、もっと回ろうとするんだから驚く! またエンジンルームとキャビン後部の空間を車内に貫通させ(鼓膜のように薄い膜を付けているだけ)、エンジン音も排気音もダイレクトでキャビンに入れている。
気持ちいいエンジン音&排気音をすぐ側で聞いているのと同じ。加速時だけでなく「クォン!」とブリッピングの入るシフトダウンもシビれます。
●動力性能
当時は最高速度220km/hという圧倒的なパフォーマンスを誇った2000GTながら、欧米のライバルからすれば控え目。そらそうだ。ジャガーやベンツなどは3ℓオーバーのエンジン積んでいましたから。
日本車のトップクラスであっても、世界レベルに届いておらず。'60年代の日本人は世界と戦えるクルマを作ろう考えてもいなかったのだろう。LFAはというと、当たり前のように世界トップレベルを狙ってます。
今回は最終コーナーの途中にシケインを作ったヤマハの袋井テスコースで乗ったのだけれど、ストレートエンドで290km/h出ちゃうのだ! シケインなしだと300km/hに達するそうな。
袋井のストレートじゃGT-Rを持ってしても290km/hは不可能だと思う。ちなみに0~100km/hが「ローンチモード」で3.7秒。ATだからして誰にでも出せるタイム。最高速は公称値で325km/hだ。
●ハンドリング
ニュル24時間レース仕様のLFAはレース仕様なのでハンドリングいいのかと思いきや、そうじゃなかった。でもノーマル状態のLFAはすばらしい仕上がり具合。絶対的な限界も高い。
飯田章選手に聞いてみたら、袋井のテストコースで最大1.5G(横方向)出るという。単純に旋回速度が高いだけでなく、ブレーキングしながらコーナーに飛び込んだって破綻しない。申し訳ないがトヨタ車じゃないみたい。激賞させていただく。
もちろん2000GTのハンドリングだって当時は高く評価されていました。フロントが軽く、アンダー、オーバーのコントロール性が抜群で、コーナリングではワンテンポ速く切り込んでいく感じ。
LFAの場合、私ですら感動しちゃいますから。おそらく相当のクルマ通でも、フルアタックしているLFAの助手席に乗ったらアタマのネジがぶっ飛ぶハズ。何度も書くけれど2000GTって井の中の蛙なのだ。世界レベルで見れば「スポーティカー」です。
●コストパフォーマンス
2000GTの新車価格238万円。1967年の大学卒平均初任給は2万6150円なので、約91ヵ月分だ。現在の大卒初任給20万7445円×91ヵ月分なら約1880万円。LFAのほうが圧倒的に高価。
また、同じ2ℓエンジンを積むポルシェ911(ナローポルシェ)は2000GTの2倍の価格だったけれど、LFAのライバルと目されるAMG SLSはカーボンブレーキを付けて約3000万円。価格もライバルと互角になった。
実際「希少である」という点を除けば2000GTよりポルシェ911のほうがはるかに優れた素材を使っていたし、工作精度も高い。43年後の現在、両車を評価したら明確な差が出る。
LFAとAMG SLSを50年後に比べたらどうか? おそらく「LFAって思いきり頑張ったのね!」となるだろう。機会があったら6ページくらい使ってLAFのメカニズムの凄さを紹介したいくらい。ということで、コストパフォーマンスという点においても、LFAに軍配を上げる。
●結論/どっちが上か?
ここまで読んでLFAの圧勝だと思うことだろう。純粋にハードだけ比較したなら、時代の差を考慮しても大差である。世界トップレベルを狙っているクルマvs日本としちゃ頑張ったGTカーなのだから。
でも趣味の世界って重さ比べができない。2000GT好きにとっちゃLFAの性能なんかまったく問題にならんです。
2000GTがデビューした当時は、自動車といえば憧れの存在。性能のよさ=凄さだった。文字どおりキラ星のような存在だったのだ。誰でも「お金を持っていれば買いたい!」と考えたもの。
LFAはどうか? クルマ好きにとって絶対的な憧れのクルマかと問われれば、そうでもないんじゃなかろうか? かくいう私もニュル24時間レース仕様に乗るまで興味を持てなかったほど。
しかも「お金を持っていても買わない」という人のほうが多いんじゃなかろうか。とはいえ世界生産台数500台、日本割り当てぶんの165台は、早々に完売。希少性という点が加味されたのだろう。
LFAとトヨタ2000GT。う~ん、どっちが上か? 判定するのは難しいけれど、総合的に見て、今のライバル車と比べたLFAのハード面と、当時のライバル車と比べたトヨタ2000GTのハード面を考えると、やはりLFAのほうがだんぜん上じゃなかろうか。だって走りが凄いもの。私は2000GTに敬意を表わしつつLFAに軍配を上げておく。
●メカオタクの熊倉重春
今ある世界中のスーパーカーのなかでも、最もシャープなクルマ。右足でアクセルを踏んだ瞬間にエンジンが回るダイレクトなエンジンフィール、重量が半分くらいに感じるボディなどエンジンとクルマ、ドライバーが一体になるこの感覚は、ほかにはないだろう。
LFAは何かを参考にしたというよりトヨタが知りうることをすべて注ぎ込んで作ったクルマ。2000GTは欧州車に追いつけ、追い越せの時代にロータスのXボーンフレームを参考にし、エンジンのベースはクラウンだからLFAのほうがメカニズム、走りの衝撃度は上。
存在価値は互角だが50年、60年先にLFAを振り返ってみると、LFAのほうが上だと思う。 レクサスLFAが上!
●レーシングドライバー兼モータージャーナリスト 桂 伸一
とにかく凄く乗りやすくて誰にでも運転できるスーパーカーだね。袋井のストレートではあっさり290km/hまで出るし、ブレーキングしてコーナーに突っ込んだところでVDIMが絶妙に効く。V10のサウンドも凄くよかったよ。ほかのスーパースポーツと比べると1オクターブ甲高い音にシビレた。
LFAに乗るまではだんぜんトヨタ2000GTのほうが上だと思ったけど、LFAに乗ってみると衝撃度は凄かった。 レクサスLFAが上!
●スーパーカーオタクの西川 淳
LFAは体育会系的に速く走らせようとすると、従来のFRスポーツカーのセオリーがいらないレクサスらしいスポーツカー。運転の巧いドライバーは攻略のしがいがあるけど、そのいっぽうでボクらレベルの素人でも素直で乗りやすく楽しく感じる、二面性があるクルマだね。
LFAは走りの面においてオリジナリティがあるが、2000GTにそれはなく、飛び抜けたものはないが、あの時代の衝撃度からいえば、やっぱり2000GTのほうが上だ。 トヨタ2000GTが上!
●スポーツカー命の河口まなぶ
ドライバーのスキルが高くないとLFAの性能は引き出せない。コーナリングの限界、強い入力がかかるところまでもっていかないとダメ。中途半端な運転ではギクシャクしてしまう。でもむちゃくちゃ速いけど速度感がないのは凄いと思う。
トヨタ2000GTが名車中の名車といわれるだけあって、後世に残した功績は大きいと思う。でもそれぞれの時代における存在を考えると、その凄さ、際モノという点ではレクサスのほうが上だと思う。 レクサスLFAが上!
●理論派の島下泰久
LFAのレーシングマシンに富士で乗った時、こんなに乗りやすいのに速いと驚いた。最終試作車はよく回るエンジンフィール、クルマの挙動が軽い! トヨタでできたのは金字塔。でもプロドライバーはいいがサーキットに行かないドライバーには伝わるインフォメーションが希薄。
エンジンには"味"があるが食は食器、雰囲気で味わって初めてうまいと感じるもの。その味合わせ方はそうでもない。でもエンジニアリングの極み、目指す境地はすばらしかった。 レクサスLFAが上!