竹島問題を注視するロシア
この問題に対して日本政府が腰が引けた態度を取っていると、ロシアに足許を見られる

佐藤 優 プロフィール

 韓国は、独島(竹島に対する韓国側の呼称)は、韓国が実効支配する韓国領で、日本との間に領土問題は存在しないという立場を取る。東西冷戦期に北方領土問題に関してソ連がとった姿勢と同じだ。これに対して、ゴルバチョフ書記長がペレストロイカを進める過程で、領土問題の存在を認め、ソ連崩壊後のロシアは、択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島からなる北方4島の帰属に関する問題を解決して、日本と平和条約を締結することについて合意し、今日に至っている。

 領土は国家の礎だ。自国の領土を実効支配できない国家は、一人前とはいえない。北方領土がロシアによって、竹島が韓国によって不法占拠された状態にあるというのが日本政府の立場だ。領土問題に関しては、その存在を認め、交渉によって解決することに合意しているロシアの方が、問題の存在すら認めず、外交交渉に応じない韓国よりはマシだ。

 今回、韓国の李明博大統領が〈 「身の安全が憂慮されることを日本政府に公式に伝えて協議するように」と外交通商省に指示した 〉(7月27日asahi.com)。「身の安全が憂慮される」というのは、身体に危害が加えられるということだ。一国の国家元首が、外国の国会議員に対してこのような警告をするのも尋常な事態ではない。大統領の警告、入国拒否などのエキセントリックな対応を韓国が示したことにより、国際社会では、日本と韓国の間に深刻な領土係争問題が存在するという認識が深まった。今回の韓国による常軌を逸した反応は、竹島問題の存在について国際社会の認知を進めることになり、結果として見れば、日本にとってプラスになった。

 この状況を注意深く観察しているのが、北方領土問題を抱えるロシアだ。自民党視察団が韓国を訪れる前日の7月31日に国営ラジオ「ロシアの声」(旧モスクワ放送)が日本向け放送で、「竹島(独島)問題 ロシアの視点から」と題するリュドミラ・サーキャン氏の名前による興味深い論評を行った。「ロシアの声」は国営放送なので、個人名の論評でも、ロシア政府の見解に反する論評は行われない。興味深い内容なので全文を引用しておく。

〈 日本の最大野党自由民主党の議員4人(引用者註* 当初、視察団に参加する意向を表明していた平沢勝栄衆議院議員は直前になって訪問を取りやめたため、視察団員は3人になった)は近く、日韓双方が領有権を主張している竹島(独島)を近くの島から視察するため訪韓する考えだが、現在この計画が韓国内で、大きな抗議の嵐を呼び起こし、ソウルの日本大使館の建物前では、デモが行われている。イ・ミョンバク大統領は26日、韓国外交通商省に、日本人議員の訪問は市民グループの怒りの的になり、身辺安全上憂慮していると日本政府に通知するよう指示した。これを受けて韓国外交通商省報道官は「訪問は両国関係に肯定的な影響を及ぼさない」として議員達に対し、訪問を控えるよう求めている。

 一方日本の枝野官房長官は「議員個人や市民の海外渡航計画に、政府はコメントする立場にはない」と述べた。

 なぜ日本政府は、訪問が韓国においてどのような反響を呼び起こすか良く知っているにもかかわらず、それを止めさせないのか? ロシア科学アカデミー極東学研究所コリア研究センターのコンスタンチン・アスモロフ主任研究員は、新聞「イズヴェスチヤ」の取材に次のようにコメントした---

 「領土問題をめぐる騒ぎは常に、政治家によって、彼らの人気を引き上げるために利用される。野党自由民主党の4人の議員の行動は、菅首相の退陣と選挙を目前に、まさにそうした目的の為なされている。それゆえ、南クリール(北方領土)問題も先鋭化する可能性がある。」

 またソウル大学のアンドレイ・ラニコフ教授は、VOR(引用者註*「ロシアの声」)の取材に対し、次のように指摘している---

 「韓国と日本の間の領土問題が、例えそれが韓国国内で極めて激しく受け止められたとしても、両国の経済的協同行動を妨げることはまずない。韓国では、南クリールの島々をめぐる領土問題がロシア国内で受け止められているよりも、はるかに激しい反応がある。 韓国人達は、独島(竹島)への日本のあらゆる行動に対して喜劇的で誇張されたように見えるほどの、一種お芝居やショーめいた反応を示す。争いは深刻だが、それが経済関係に影響することはない。