対中外交、TPP、菅政権には国家経営の戦略がない

犯人探しよりも尖閣事件の検証を徹底せよ

 尖閣ビデオの「犯人」探しは愚策である。菅内閣にとっては政治テロを仕掛けられたという認識なのだろうが、仮に逮捕してみても英雄になるだけ。

 刑事処分保留のまま釈放した体当たり船長の別バージョンを作ることになるだろう。これ以上、支持率を下げたくないのなら、犯人探しに変えて、尖閣事件の検証を徹底してやることだ。

 公開もありうる前提で編集されたビデオ映像は、官邸の意向(で、中国への配慮)でお蔵入りになったという。その後、一部が国会議員30名に限定公開され、再現CGがテレビ画面を賑わせた。国民が秘匿された映像を見たいという思いを募らせるのは自然の成り行きだった。実に絶妙のタイミングで流出した。

 日中首脳会談を実現するためにも「犯人」を捕えて中国に誠意を見せようというつもりなのか、ヤケに気合が入っている。しかし、そもそも秘匿するに足る機密なのか。誰のために秘匿するのか。中国への配慮のために秘密にしておくのか。

 そもそも、国家公務員法100条1項にいう秘密とは「非公知の事実であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値するに認められるもの」(昭和53年最高裁判例)をいう。今回のビデオ映像は政府自ら全面公開しておくべきものであり、こうした要件に該当するとは思えない。

 政府は、体当たり船長は処分保留中であり刑事事件の証拠書類だから秘密とでも言うのか。体当たり船長を圧力に屈して釈放し、刑事事件として適切に扱っていく勇気のかけらもないのに笑わせる話だ。およそ国民目線に立つと通じない理屈である。

 犯人捜しが国益に適うと考えているのなら、国家経営者としてはよほどピントがずれている。要は、菅内閣のメンツを守るため、腹いせのために「犯人」を捕まえたいだけなのだろう。

 中国にしてみれば、普天間基地移設を県外・海外と主張し、日米中正三角形論や東アジア共同体構想を唱えていた鳩山・小沢政権が崩壊し、日米同盟重視やアメリカ中心のTPP(環太平洋経済連携協定)を突如、唱え始めた菅・仙谷政権の覚悟と反射神経を試しにかかっているにすぎない。中国国内の対立(沿海部と内陸部の格差、対日強硬派との派閥争いなど)をゴマかすまたとない機会でもある。

覚悟と戦略をもった政権が必要

 森本敏拓大教授は、中国は2009年4中全会の頃から戦略調整を行い、「応分の負担を負うが、過分な負担は負わない」、「核心的国家利益を優先させ、対外関係を犠牲にしてもやむを得ない」との対応に変化してきていると指摘する。

 2012年以降、国家主席となることが確実視される習近平氏は、内政上の実績が評価されてリーダーとなるわけで、江沢民前国家主席や人民解放軍の影響力がバックにあることを考慮する必要がある。


 日本の国益を明確にした、国家戦略に基づく実効性ある措置として、政策決定プロセスを明確にし、国家情報機能を一元化すること、自主防衛力の強化、グローバル・コモンズを共有する諸国との連携強化とアジア太平洋における多国間協力の積極的イニシアティブを進めるべきだ。

 覚悟と戦略をもった政権なら「渡りに舟」のTPP(環太平洋経済連携協定)を上手に生かしたはずだ。「交渉参加」を決断するのは必須条件だった。しかし、これまた党内反対派の結集におじけづいて「情報収集」「関係国との協議開始」に大幅後退。さらには、農業強化の基本方針を来年6月めどに決定するとしたことから、その頃までの間は交渉参加の決定もできない。何という不様な志であろう。

 まともな政権なら、FTA交渉で米・欧・中・韓などに遅れをとり、日本企業が不利な競争条件を余儀なくされている中で、中国中心の「東アジア共同体」から起死回生の国を開く大戦略で臨む場面だった。農業のような衰退産業を成長産業に大転換し、閉鎖的な国内制度・規制のガラパゴス国家から脱却する絶好のチャンスだった。

 民主党政権のやっているバラマキ型戸別所得補償では、農地の細分化に逆戻りして農業の足腰は強くならない。平成の農地改革で農地集約化を進め(大小作人と小地主政策)、農業への新規参入を促進し、遅々として進まなかった農業の生産性向上を一気に進めることが必要だ。

 農業の世界でも腕の良し悪しがはっきり出る酪畜農業分野では、過剰債務に苦しむ酪畜農家が、借金地獄から解放され、後ろ向きのデフレ経営から脱却するチャンスだ。経営の統合集約化によって前向きに生産性向上をともなって再生されていけば、ロングライフ加工した牛乳や乳製品の輸出も可能になる。高級牛肉・豚肉は高価格でも競争力は負けない。

 開国をするには覚悟と戦略が必要である。「通貨戦争」に勝たなければ大ダメージを受ける。FRBがQE2(量的緩和第2弾)で新規分50兆円のバランスシート拡大を決めた。これであと半年ぐらいはもつだろうが、その後が大変だ。アメリカの景気が良くなれば、ドルキャリーの巻き戻しで新興国のバブル崩壊。景気が悪ければ、QE3で更なるマネタイゼーションを迫られ、ドルの信認の問題が再浮上する。

 日本に残された時間は少ない。国家経営の戦略も覚悟も持たない政権には早く退陣をしてもらうしかない。

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