「尖閣問題」に対する中国国内の反応は、実際のところどうなのか?

日本のメディアは一側面である"反日デモ報道"を繰り返し、ミスリードしている。

 ある雑誌の仕事で先月、上海在住の20代の日本人男性10人あまりに取材をした。尖閣問題がらみだ。主題のひとつは、日中間で問題が起きるたびに日本のメディアは「中国では大変なことになっている」的な報道をすることが多いが実際のところはどうなのか、を聞くというもの。結論は・・・。

 上海においては「反日」の過激な空気はほとんど感じられなかった。

 なかには、顔をあわせば会釈や立ち話をしていた近所のお年寄りから口を聞いてもらえなくなった、よく行くコンビニの店員の態度が冷たくなった、タクシードライバーの中には一時期フレンドリーさが消え微妙な空気が車内に漂うことがあった、といった体験もあったが、「燃え盛るような反日の空気」を感じたという声は皆無だ。

10月末に閉幕した上海万博の日本館外観。尖閣問題以降も長蛇の列だった。

 逆に、上海の友人から「人がたくさん集まる場所には行かないほうがいい」とアドバイスを受けたり、「『争っていてやばいよな』と、笑いながら世間話になった程度」という声も。

 上海など都市部の若者たちの間には政治への無関心が広がり、愛国的な行動をシニカルに見る層もいる。

 会社のスタッフとの間で「尖閣問題」を話題にしようにも、話に乗ってくれるのは現地スタッフ8人のうちで地方出身者である1人だけだったと言う人や、「取引先から嫌味のひとつでも言われると思ったが全くなくて拍子抜けした」と感想をもらす人もいた。

 先月末まで開催していた上海万博でも日本館の人気に陰りはなかった。同館広報担当者によれば、来場者も減らなかったという。

 校了直後に内陸部で大規模な反日デモが連続して起きたが、愛国という御旗を隠れ蓑に国内事情へのさまざまな不満を吐きだしている側面もある。場合によっては、例えば北京や広東省の大都市でも起きるようなことがあればメンツ的にも上海で起きる可能性はあるし、それは今回の問題に限ったことでもない。

万博期間中に開かれた「アニソンナイト」。こぶしを振り上げ、日本語で熱唱するアニソンファンたち。日本のアニソン歌手を空港で出待ちするほど熱狂的なファンもいる

 愛国教育の影響などで個人差こそあれ、多かれ少なかれ「反日」の感情を中国の人々は抱いている。しかし、目の前にいる日本人を好ましく思い、気遣う気持ちや、日本のカルチャーやファッションに対する憧憬もまた嘘ではなく、特に若い世代にはダブルスタンダードが存在している。

日本人が思うほど中国人は日本を嫌っていない

 日本のメディアが行った反日デモ報道は一側面にすぎない。繰り返し見せることでミスリードしている。中国すべてに反日ののろしが上がっているわけではない。

 11人の20代男子たちに話を聞いてみると皆、口をそろえたのが、

 「日本から『治安が悪そうだけど、大丈夫か』とメールや電話が来て、正直なところ『えっ、なにが?』って思った」だった。

 中国人に日々、囲まれて暮らす彼らの印象は、「日本人が思っているほど中国人は日本人のことを嫌っていない」し、「中国の報道は確かに偏っていますが、多くの中国人は『なにか裏がある』とメディアを懐疑的な目で見ています。逆に、日本人のほうが中国報道については鵜呑みにしがちではないか」というもの。

 あるいは、「中国政府はケンカしなれているというか、したたか。それに比べて日本政府は後手後手だ」「一面的な情報だけを持ってにわか進出した日系企業が中国企業にしてやられている構図に重なっても似ている」など。

 在上海日系企業の中には、反日感情を考慮してイベントや新規出店を延期させる企業もあった。本社の意向もあるのだろうが過敏すぎる。ましてや在住日本人向けサービスさえも延期するという企業にいたってはナンセンスとしか思えない。

 経済成長の恩恵を受け、ネットの普及で海外の情報も手に入れやすくなった、ましてやこの広い国に住む人々がそう単純に一枚岩になるはずがない。そろそろ対中観を変える時だ。

 尖閣問題では、レアアースの輸出禁止だけでなく、日本向け貨物の税関検査も強化された。9月23日に北京発で輸送されるはずだった航空貨物が日本の空港へ到着したのは10月2日だったというケースもあり、納期遅れという被害は実際には少なくなかっただろう。

 しかし一方で聞こえてくるのは、「税関検査は厳しくなったが、さして影響はなかった」(自動車関連専門商社駐在員)という声。

 物流企業のある駐在員も「10月の国慶節前の税関検査は例年厳しくなりますし、中国では降ってわいたように突然検査が強化されることもたびたびあります。それに対処するのが我々の仕事ですので、今回も目立ったトラブルはなかった」と話した。

 重点が置かれたのは、日本にとってダメージが大きい航空貨物輸出だった。通常なら貨物全体の10%に課される検査が全量(100%)になりはしたが、海上貨物はそれほど厳しくなかったからだ。中国企業に実害が出る輸入貨物への規制強化もなかったが、これも日系企業に幸いした。生産基地ではなく消費市場として中国と向き合う日系企業が増えていたからだ。

 そしていまもなお、中国への進出を計画あるいは準備を進める日本企業は少なくない。ストや反日デモ、賃金高騰といったリスクを考えると、生産基地としての魅力は以前ほどない。相当内陸部にでも行かねば採算も合わないが、内陸部に行けば行くほど物流コストがかかることになり、トラブルの起きないことがないと言われる中国の物流環境の中で新たなストレスを抱えることになる。

 日本の商品やサービスを中国国内で販売するにしても、「やり方次第、狙うマーケット次第」という一面はあるものの、「いまからでは遅いでしょう」というのが中国在住ビジネスマンの大方の見方だ。

「『うちの商品はいいですからね、中国でも売れるでしょう』と中国進出に賭けようとする日本企業はまだまだ少なくないです。確かにいい商品だとは思いますが、そこそこのものではな太刀打ちできない。最新のものを持ってこなければ中国では戦えないでしょう。中国の技術力の向上は例えば、消費者の手に直接渡る衣料品のような風上だけでなく、衣料品に添加する化学品のような風下まで確実に広がっています」とは、ある商社マンの弁。

 停滞する日本ではなく、経済発展著しく市場の大きな中国で勝負・・・。日本の良質の商品を持ってくれば何でも売れるというのはもはや幻想でしかない。

 反日に覆われているというマイナス幻想も、魅力的な中国市場というプラス幻想も捨て、経済的にも政治的にも強大な力を持ち始めた隣国とのつきあい方を今、足元から考え直す必要がある。

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