政府提案で民自公修正の「原子力損害賠償支援機構法案」(通称東電ゾンビ救済法案)が成立しそうだ。これからの日本を誤った方向に導く法案だ。
一言でいえば、資本主義の原則を踏みにじった。資本主義社会では、失敗したときは責任を伴うことが当然である。ところが、この法案では、とるべき者が責任をとる前に、国民が負担を負う内容である。
自公民の修正協議が本格化する前、内閣官房の担当官が「法案修正のポイント」「機構法案において修正が許されないポイント」なる名無しの権兵衛ペーパーを作った。
政府はこの文書を用いて自民党議員に働きかけた事実は全く無い、などと言い訳しているが、出てきた修正案を見れば出所は一目瞭然だ。
東電を債務超過にさせないための仕掛けが巧妙に仕組まれている。まず、原子力損害賠償支援機構による東電の株式の引受け(資本注入)が2兆円。小切手である交付国債交付が2兆円。これらを超えたら、資金交付(税金の直接投入)を可能にした。これが、東電とことん救済規定でなくて何なんだ。
もちろん、長期間にわたり電力料金でこれらを返していくわけだから、政府からみれば、生かさず殺さず東電を夢も希望もないゾンビ企業として存続させるともいえる。
しかし、東電からすれば、国民に対する資本のたかりが成功するにつれ債務超過が遠のき、息を吹き返してくるだろう。
今回の法案を通じて、電力会社、経済界、官僚、族議員という電力マフィアの絆は一層強固なものになった。高い電力料金を国民にたかり、これを山分けする構造が強化された。衆議院の震災復興特別委員会参考人質疑に出席した電気事業連合会会長(関西電力社長)や全銀協会長(三菱東京UFJ銀行頭取)らが、質疑の後、自民党筆頭理事の額賀福志郎元財務大臣らと親しげに握手している光景は、実に印象的だった。
こういう法案が成立・執行されると、菅総理の唱える「脱原発」や「発送電分離」が全くデタラメであることが明らかになるだろう。
なぜならば、脱原発も、発送電分離も電力会社の経営の根幹を変えるものだ。電力会社は凄まじい抵抗をするに決まっている。100%減資の破たん処理をやっていれば、発送電分離だって迫りやすい。しかし、逆に、電力会社の親玉の力を強くしておいて、どうやって経営の根幹の変更を迫るというのか。
この法案が執行されると、みんなの党が主張するような電力自由化を柱にした脱原発実現のハードルも上がる。
私は、参議院の特別委員会でこの法案が可決成立される前に、菅総理に対して面会を申し込んだ。「官邸官僚が作った根回しペーパーで更に改悪された法案が通ると、総理の理想は現実困難になりますよ」と言うために。
しかし、菅総理側からの返答は、「議論の積み上げを壊せない」というものだった。議論の積み上げとは、単に守旧派官僚と族議員の積み上げに過ぎない。
菅総理は、小泉元総理を相当意識しているようだが、小泉元総理のように「ぶっ壊す」ことはできないようだ。結局、脱原発、発送電分離を検討といいながら、覚悟も戦略も全くなし。
みんなの党は、一貫して、解体・破綻処理のための一時国有化を主張していた。
賠償債務が確定しなければ債務超過に至らないという言い訳があるが、東電の社長が早晩資金面で立ち行かなくなると書面で示しており、債務超過のおそれがあることが明らかである。かつての金融再生法の枠組みに準じて、国が職権で特別公的管理を適用して破たん処理をすればよいだけである。
こうすれば、5兆円規模の送電関係部門の売却・再上場も視野に入れ、賠償原資を捻出でき、金融機関や株主が責任を負えば、国民負担の最小化が図れる。
そして、発送電分離で、電力自由化の先取りを行えば、次の未来の成長戦略も実行できるのだ。