今、ブログやネットの書き込みで大反響! 店内画像もかなり出回り大騒ぎされているのが、新橋の居酒屋「加賀屋」。さっそくライター藤倉慎也が編集Yさんと調査に訪れた。店はビル地下1階にある入れ込みの座敷で、靴を脱いで上がる。店員は、俳優張りのクールな顔をしたマスターらしき人物と、厨房の中年女性のみ。そのマスターがいきなり宣言する。
「それでは始めさせて頂きます」
すると頭におしぼりをのせたアンパンマンのロボットとともに登場し、〝歓迎の舞い〟を披露。スルスルと席まで近づいて、おしぼりを渡してくれるのだ。
Y「な、なんですかこの店?」
この店の"サービス"はこれだけではおさまらない。渡されたメニューはなんと、ジャポニカ学習帳で、クレヨンでメニューが書かれている。コース注文のみで、メニュー名がやたらと長い。たとえば1050円コースは、〈ねーマスターけっこう今日はおなかはいっぱいなんだ。だから、なんていうのかな・・・軽めの気のきいたつまみ、ちょっとたのむよ。おいしいやつね!〉(メニュー名)
とりあえず頼もうとすると、
マスター「メニュー名を読みあげてください」
仕方なくボソボソと読み上げると彼は、あきれたような顔をして、ニコリともせずに言うのだった。
マスター「心がこもっていないですね。もう1回、読んでください」
やけくそで芝居の台詞のように読むと、マスターが笑顔で私の肩をたたきながら「わかったよ!」。思いっきり固まってしまった。
さらに、メニューに『持ってき方をきめてください』とあり、アメリカ、日本、フランス・・・と国名が並んでいる。わけもわからず、『中国』を選んでみると、それまでクールだったご主人がカンフー姿で現れて「アチョー〜」と絶叫しながら料理を届けるのだった。しかも、パフォーマンスが終わると、何事もなかったようにシレッとして真顔になっている。いったい、どんな人なの?
後日、あらためて取材を申し込んだ。名前はなんと「マークさん」(46歳)。いよいよ怪しい人物だ。
本名はウチダユキオといい日本人です。新橋は外人客が多いんですよ。外人は"ユ"の発音が苦手で、“ジュキオ"になってしまうんです。それならいっそのことと思って、大リーガーのマーク・マクガイアから名前を借りました。
店はいつ頃から営業してるんですか?
私は生まれも育ちも新橋。もともと祖父母が酒屋を営んでいて、その後、両親が居酒屋を始め、22年前にボクが引き継いだんです。
ご両親の時から、今のような店だったんですか?
普通の居酒屋ですよ(笑)。店を継いだ時、ありきたりじゃなく、加賀屋でしか味わえないジャンルの店を作ろうと思ったんです。
大ウケしてますが、人を楽しませるタイプなんですか?
私自身は無趣味だし、子供の頃も目立たないタイプ。ただ店の盛り上がり方を考えたり、小道具などを取り入れていったら、今のようになっちゃった。
パフォーマンスが、ネットで世界中に流れているようですが。
新しいものに対しては、外人の反応はいいですからね。海外のメディアにもずいぶん取り上げられました。ただ、いつも“変な店"の特集番組ばかり(笑)。さすがに、カエルの着ぐるみの映像がCNNに流れた時には、もう引き返せないと思いましたね。
取材の日には、5年ぶりに再訪したというスウェーデン人がいた。奥さんと子供を連れて、この店のために来日したそうだ。彼曰く「ザ・ベストプレイス・イン・トウキョウ!」。やっぱり来てみないとわからないかも。