犯人はなぜ与党を標的にしたのか
「ノルウエー連続テロ」の影に浮かぶ「ヨーロッパの人種主義」

佐藤 優 プロフィール

 ノルウエーのナチズムであるキスリング主義は、キリスト教と親和的なのである。

 ノルウエーだけでなく、第二次世界大戦後のヨーロッパでは、「血と土」の神話に基づくナチズムにつながる人種主義は克服されたという建前になっている。しかし、今回のテロ事件によって、人種主義は地下に潜っていただけに過ぎないことが明らかになったのではないかと筆者は恐れている

血と土に基づくナチズムが見えてくる

 ブレイビクは活動家で、自らの政治活動に理論的に述べているわけではない。今回のテロ行為も理論的によく詰めて行ったものではないと思われる(1923年11月にヒトラーがミュンヘンで起こした一揆も、理論的によく詰めた上で行われたものではなかった)。今後の取り調べや公判における尋問で、ブレイビクが、自らの心情を述べるであろう。

 新聞報道によると、〈 23日になって警察当局は、ブレイビク容疑者の名前を公表。「右翼思想の持ち主。キリスト教原理主義者のノルウェー人」と説明した。ストルテンベルグ首相も「単独犯か複数かは分からないが、警察は国内の極右組織を洗っている」と語った。/ロイター通信によると、容疑者は交流サイト(SNS)フェイスブックの中で、自らを「保守的なキリスト教信者で独身」と紹介し、自身の名を冠した農場を営んでいるとも書き込んでいた。5月には6トンの化学肥料を買ったという。化学肥料は、過去の事件でも爆発物の製造に使用されてきた。販売した事業者は「6トンの肥料は農家にとっては通常の注文だ」と語った。 〉(7月24日asahi.com)ということである。

 この記事では、爆弾の原料に化学肥料が用いられたのではないかという視点から、ブレイビクが農業に従事していたことに注目している。筆者はむしろ「血と土」の神話に基づくナチズムにおいて、土と結びついた農業に神聖な価値が付与されていたことを想起すべきと思う。現時点で今回のテロ事件とヨーロッパに潜在する人種主義を結びつけた論評は少ない。

 しかし、歴史に照らしてみると、筆者には人種主義の影が見える。冒頭に述べたように、人種主義は民族や国家を超える現象なので、ブレイビク裁判が報道される過程で、ヨーロッパに眠っていた人種主義が目を覚ますことを筆者は恐れる。

リスクを読み解けばビジネスは変わる
リスクがわかればビジネスがわかる
 
著者:佐藤優
価格:1050円(税込)
配信周期:毎月第2・4水曜日+号外
 
※お申込み月は無料でお読みになれます。