中国が「尖閣諸島」で試す菅首相の「覚悟と信念」

世界は大地のノモスから海のノモス確定に時代に

 堺屋太一氏によると、上海万博のパビリオン配置は中国館を中心に周辺各国があり、そのはずれに日本館。アメリカ館は最も離れた所に位置する。文明の中心地域という世界観をもつ中華思想が色濃く出ている。

 上海上空から見た東シナ海は茶褐色に染まっている。揚子江が吐き出す泥のせいだ。

 泥の堆積で港が使い物にならなくなることを回避するため、上海沖合の岩山島である小洋山島に36kmの橋をかけ、全長5kmの巨大コンテナターミナルをまたたく間に作った。

 数年前まで貧しい漁村だったこの島に、5段重ねのコンテナの列と数えきれないガントリークレーンが並ぶ。しかし、ここもまわりは茶褐色の海。

 揚子江の泥は東シナ海に堆積し沖縄トラフまで続いていると言う。泥の中にある資源も、泥の上にある島も中国のものだと大陸棚延伸理論を主張する。つまり、日本が主張する国際標準のEEZ(排他的経済水域)中間線近辺にある天然ガスや石油、そして尖閣諸島もそうだ。

 尖閣や中国が開発中のガス油田の付近は、澄んだ青い海の色をしている。見た目には泥の堆積は信じられない。しかし、中国は以前から3次元の物理探査船を大量に保有し、海底探査をやってきた。この3D探査技術は日本から学んだものである。

 尖閣が日本固有の領土であることは、疑いを入れない。明治時代にはカツオ節を作る工場もあった。尖閣に中国が関心を持つようになったのはオイルショック以降。今や凄まじいまでの資源とエネルギーを追求する中国の東シナ海におけるシンボルと化している。

 鳩山・小沢時代の日米中正三角形論から、菅内閣は口先では日米同盟重視に転換した。尖閣をめぐる中国の強硬姿勢は、菅内閣の覚悟と信念を試しにかかっているのだろう。

 前原外務大臣は、日中ともにwin-winの関係になる「戦略的互恵関係」を口にする。この戦略は小泉政権時代に冷え切った日中関係を正常化するため、安倍内閣が採用したものである。安倍総理は靖国参拝で軋轢を避けた。菅内閣は何をカードにするのか。「戦略的互恵」の真価が問われている。

 中国が軍事戦略として考える「第一列島線」(九州を起点に、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島にいたるライン)のみならず、「第二列島線」(伊豆諸島を起点に、小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニューギニアに至るライン)の眼目は、資源の確保である。

 非常に複雑な海底地形を持つ日本近海の太平洋は、資源の宝庫でもある。金・銀・銅・ニッケル・コバルト・マンガン・メタンハイドレード等、無尽蔵とも言える資源が眠る。特に、燃えるシャーベットと呼ばれるメタンハイドレードは、実用化されれば100年間日本のエネルギーをまかなえる、と言われている。

 私は自民党時代、大陸棚調査推進議員連盟の幹事長として、日本の大陸棚延伸を応援した。南鳥島や沖ノ鳥島に至る海底山脈が日本列島と地続きになっている地質学上の叙事詩を明らかにできれば、日本の領土が実質1.5倍に広がるのと同じ効果をもたらす。

 日本は一昨年、国連「大陸棚限界委員会」に太平洋側の海底地形を調査した結果を提出した。21人の各地域から選ばれた専門委員が本格分析を行っている。今、世界は大地のノモス(秩序)から海のノモスの確定に入ったのだ。

 陸と海との戦いは、人類の歴史とともに古い。大陸国家中国が海軍の軍事力を増強し、本格的な海の勢力を目指している。この行動を支えるのは、膨大な外貨準備に裏打ちされたマネーだ。

「真珠湾攻撃」に浮かれる菅政権

 再びキナ臭さを漂わせる世界金融危機だが、その危機の構造はおよそ4段階に別れる。ステージⅠは個別金融機関の危機。これには公的資金注入などで対応する。ステージⅡは一国のシステミックリスクを伴う危機。これには金融・産業一体再生が必要となる。

 ステージⅢはグローバルな危機であり、通貨調整を伴う。1930年代とリーマンショック以降の世界がそれだ。この段階で解決に失敗すると、ステージⅣは、強制的需要創出と強制的供給破壊、すなわち戦争に至り、マルサス的人口調整が行われる。これが歴史の教訓だ。

 世界のまともな政治指導者は、自国の国益を最大化することを常に考えながら、いかにステージⅢで問題を解決するかに心を砕く。1930年代の自国通貨を安くする政策は、近隣窮乏化と言われた。日本銀行はFRB(米連邦準備制度理事会)とECB(欧州中央銀行)の包囲網の中で円を高くする自国窮乏化をとり続けてきた。

 菅氏が再選され、勝利の宴に酔いしれている時、急激な円高が進行し、政府はたまらず、禁じ手のドル買い介入を行った。マーケット相手に真珠湾攻撃を仕掛け、勝った勝ったと有頂天になっているのが今の状況だ。

 仙谷官房長官などは記者の誘導尋問に引っかかり、「82円が防衛ライン」であることを認めてしまった。国家がプレーヤーとなった為替市場で、手の内を明かすバカがどこにいるか。「バカ」が言い過ぎなら、「おバカさん」と言おう。

 通貨の問題は安全保障に直結する。エドワード・ミラー「日本経済を殲滅せよ」によれば、1940年前後、大日本帝国はひそかに金とドルを貯めこんだ。日米開戦当時の2億ドル備蓄は、日本が必要とした米国産原油4年分を買える額だった。

 しかし、1941年7月、アメリカは敵国通商条項により、日本の息の根を止めるために金融凍結を行う。イギリスやオランダも追随。日本で国民に供出させたり、生活水準を切り下げて蓄積した金・ドルは無価値となり、石油も買えなくなった。万事休すとなった大日本帝国の指導者は戦争を選ぶ。

 降伏後、日銀や政府の金庫に貯められていた金・銀はGHQに接収され、M資金詐欺のネタとなった。41年に凍結されたドル資産は2度と戻ってこなかった。為替介入によってアメリカに送ったドルを日本に持ち帰ろうとするとどうなるか。かつて橋本龍太郎総理が、「米国債を売りたい衝動にかられる」と言い放って大物議をかもしている。

 未来永劫増え続け、国際天下りの温床となっている外為特会を更に増やすより、日銀のバランスシートを膨らませた方が、果かに国益にかなう。国家経営の分からない連中が国家経営をやり続けると、国が滅ぶ。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら