菅直人首相が脱原発を争点に内閣の大幅改造、あるいは解散総選挙を狙う公算が一段と強まってきた。
菅は7月12日の衆院復興特別委員会で、原発について「事故のリスクの大きさを考えると、民間企業という形が担いうるのか」と語り、国有化を示唆した。続いて13日には、記者会見でも脱原発依存の考えを強調した。
唐突にストレステストの実施を原発再稼働の条件に持ち出したのに続いて、今度は原発国有化である。浜岡原発に限って運転停止を求めていた5月初めごろと比べると、原発に対する距離感は雲泥の差だ。
安全が確認されれば再稼働を容認するどころか、原発事業そのものを電力会社から切り離し、国の管理に置いてしまおうとしている。党内外から袖を引っ張られるのを振り切るように、菅はしゃにむに脱原発で突っ走ろうとしているようだ。
なにが、これほど菅を突き動かしているのか。
もちろん政権の延命である。
まず内閣支持率が急落している。NHKの7月世論調査では、菅政権の内閣支持率は前回より9ポイント下がって16%に急落した。加えて、岡田克也幹事長が8月上旬の代表選実施を言い出して、党内では菅降ろしの動きも激しくなってきた。
強まる逆風に抗して延命しようとすれば、国民を味方に付ける以外にない。そこで大胆に脱原発路線に舵を切ってきたとみて間違いない。原発国有化という今回のアドバルーンで支持率が上昇するのを確認すれば、さらにもう一歩踏み込んでくるのではないか。
先週のコラムで「政権が苦境に追い込まれれば追い込まれるほど、菅は脱原発に傾く」と書いたとおりだ。
菅が攻勢に転じた一方、岡田や仙谷由人官房副長官、安住淳国対委員長ら菅降ろしをもくろむ勢力は有効な攻め手を欠いている。断崖絶壁に追い込まれていたはず菅が一転して、息を吹き返してきたのである。
こうなったのは、先々週のコラムで書いたように結局のところ、岡田や仙谷たちは「なぜ菅降ろしなのか」という国民に訴える大義を掲げられないからだ。
「菅の政策が悪い」というなら、そういう政権の政策を担ってきた自分たちにも責任がある。「政策はいいけれど、実行のスピード感がない」というなら、それもやはり自分たちに責任がある。
菅の悪いところを列挙しようとすると結局、投げた矢はブーメランのように自分に戻ってきてしまうのである。