ここまで分かった 「がんになる人」「がんで死ぬ人」の生活習慣

約10万人の日本人を大調査

日本人のほぼ二人に一人ががんになる。つまり隣の人がなれば、あなたはならないし、あなたがなれば隣の人はならない。二人を分けるもの、それは普段の生活の中に隠れている。

コーヒーを1日5杯以上

朝の会議、昼食後のデスクワーク・・・瞼が重くなるとき、コーヒーを口にする人は多いのではないか。そんなコーヒーには「飲みすぎると身体によくない」というイメージがある。ところが、コーヒーをよく飲む人は、がんになりにくいという研究結果が出たという。

「コーヒーを毎日飲む人は、ほとんど飲まない人と比べ、肝臓がんの発生率が約半分に減り、1日の摂取量が増えるほど、発生率が低下するというデータが示されました」

こう話すのは、国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究部長の津金昌一郎氏(55歳)。この度、対がん運動に功績のあった個人や団体を対象とする「朝日がん大賞」を受賞した人物だ。その授賞理由の一つとなったのが、冒頭で紹介したコーヒーに関する調査も含まれる「多目的コホート研究」(疫学においてコホートとは、追跡調査を行っていく特定集団のこと)である。

津金氏を中心とする研究チームは、日本人約10万人を、20年あまりにわたって調査。生活習慣とがんなどの病気との関係を明らかにしてきた。

たばこや、酒の飲み過ぎが体によくないことは誰でも知っているが、それらの嗜好品、食べ物や運動習慣が、がんの発生率にどの程度の影響を与えているのか。

津金氏らの研究は、それを数値や確率によって明確にしたものだ。がんに「なりやすい人」と、逆に「なりにくい人」の差をわかりやすく提示したのである。

■コーヒー・緑茶

まず、冒頭に紹介したコーヒーから。ほとんどコーヒーを飲まない人の肝臓がん発生率を1とすると、毎日1~2杯飲む人の発生率は0.52、毎日5杯以上飲む人は0.24だった。なぜ、コーヒーをよく飲んでいる人に肝臓がんが少ないのか。津金氏は次のように説明する(以下、カギカッコ内は津金氏のコメント)。

「肝臓がんの患者の9割以上は、C型かC型肝炎が原因で発症するのですが、コーヒーには炎症をやわらげる作用があるため、肝炎の進行を抑えることで、肝臓がんを予防するのではないかと考えられます。

また、コーヒーにはクロロゲン酸をはじめとする、多くの抗酸化物質が含まれており、これが肝臓のがん化を防ぐ方向に働いているという報告もある。さらに、インスリン抵抗性を改善することによってがん細胞の増殖を抑えるとも考えられています」

男性の場合、コーヒーを1日3杯以上飲む人は、すい臓がんにかかるリスクも4割下がる。さらに、女性の子宮体がんや大腸がんの予防にも効果があるというデータも存在する。

同じ飲料でも、緑茶は肝臓がんの発生率との関係が認められない。しかし、前立腺の進行がんのリスクを低下させる効果が示されたという。緑茶を1日5杯以上飲む人は、1日1杯も飲まない人と比べると、罹患リスクが半減する。

「緑茶に含まれるカテキンという物質が、がん細胞の増殖を抑え、前立腺がんの危険因子の一つと考えられている男性ホルモンのテストステロンレベルを下げるように作用していると推測しています」

また、女性に関していうと、緑茶を1日5杯以上飲む人は、胃がんの発生率が3割ほど低くなるという。

たばこと酒をかけ合せると

■酒

酒の影響も、大いに気になるところだろう。男性では、アルコール摂取量が日本酒で1日平均2合未満だと影響は見られないが、1日平均2~3合の飲酒をする場合、時々飲む人に比べてがんの発生率が1.4倍、1日平均3合以上では1.6倍となった(日本酒1合のアルコール量は、焼酎なら0.6合、ビール大ビン1本、ワイングラス2杯、ウイスキーダブル1杯に相当)。

アルコールは、口腔、喉頭、食道といった上部消化管のがんを起こしやすい。胃がんでは、胃の上部に位置する噴門部がんの発生率も上げる。

「多量飲酒者がいなければ、がんの13%が予防可能であったという推計も出ました。がんになりにくくするには、日本酒換算で1日平均2合以上の飲酒は慎んだほうがいい。ただし、脳出血や大腸がんは、1日平均1合を超えると罹患の危険性が高くなる。生活習慣病の予防という観点から考えると、日本酒なら1日1合、ビールなら大ビン1本程度までに控えておいたほうがいいでしょう」

■たばこ

たばこが体に害を及ぼすことは、周知の事実だが、実際にがんの発生率を数字でみると、その影響が明確に理解できる。

研究の結果、たばこを吸っている人は吸ったことがない人と比べて、がん全般の発生率が、男性で1.6倍、女性で1.5倍になる。

がんの中でも、とりわけたばこの影響を受ける肺がんの発生率は、吸わない人に比べて、男性で4.5倍、女性で4.2倍にものぼる。過去に吸っていた人でも、男性で2.2倍、女性で3.7倍。さらに、肺がんの中でも、気管支に発生する扁平上皮がんと小細胞がんに限定すると、男性12.7倍、女性17.5倍という驚くべき結果が出ている。

どのぐらいたばこを吸っているかを、「喫煙指数」=「吸い始めてからの年数」×「1日に吸う本数」で表すのだが、この値が1200(たとえば、1日40本を30年間吸い続けた値)を超えると、吸わない人に比べて6.4倍、肺がんになりやすい。

たばこが引き起こすのは肺がんだけではない。喫煙する人は吸わない人と比べて、その発生率は、大腸がんで1・4倍、胃がんで2倍、食道がんで3・7倍などといった恐るべき数値となる。

「たとえば、日本人全体で'04年の1年間で約60万人が何らかのがんにかかったと推計されていますが、そのうち、男性のがん患者の29%にあたる約11万人、女性のがん患者の4%、約1万1000人、合計約12万人のがんが、たばこが原因と推計されます。たばこを吸っていなければ、これだけの人たちががんにかかることを防げたはずなのです」

さらに津金氏らの研究で明らかになったのは、受動喫煙によるがん発生率だ。たばこを吸わない女性の肺がん(ここでは腺がんに限定)を調べてみると、受動喫煙のある人は、ない人の約2倍の発生率だった。しかも、夫の喫煙本数別にみると、1日に20本未満で1.7倍、20本以上では2.2倍と、本数が多いほど、妻の肺腺がんのリスクが高い。

「肺腺がんのリスクは、夫のたばこの本数が増えれば増えるほど高くなる。今回の研究では、肺腺がんのうち37%は、夫からの受動喫煙がなければ起こらなかった。受動喫煙は心筋梗塞のリスクも高めます。だから喫煙とは、迷惑をかけるといったレベルの話ではなく、他人への危害行為なんです」

さらに注意しなければならないのは、酒とたばこの併用だ。喫煙者で、1日平均2~3合飲む人は、時々飲む人と比べてがん全般の発生率が1.9倍、3合以上では2.3倍にもなる(上のグラフ右)。大腸がんでは、喫煙者で1日2合以上酒を飲む人は、両方ともやらない人に比べて発生率が3倍に、肺がんも、1日2合以上飲む人は、月1~3回程度しか飲まない人と比べて1.7倍となる。他にも、胃や食道など多くのがんは、喫煙と飲酒が重なると発生率がぐんと高くなるという。

なぜ、たばこと酒が重なると発生率を高めるのか。

「お酒に含まれているエタノールは、分解されてアセトアルデヒドになります。このときに活発になる酵素が、たばこの煙に含まれる発がん物質を活性化しDNAに損傷を与えることなどが原因だと考えられます」

サプリの飲みすぎはマイナス

■食べ物

魚には、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)が含まれており、体にいいとされる。これまで、魚は大腸がんを予防するというデータもいくつか発表されてきたのだが、今回の研究では、結腸がん・直腸がんとの関連は明らかにならなかった。

大腸がんに限っていうと、男性では、マグネシウム摂取量が高いほど、リスクが低くなる傾向がみられた。マグネシウムは野菜、米、小麦、大豆、魚、牛乳、乳製品などに多く含まれている。

また、ビタミンB6を多く摂取する人は、大腸がんのリスクが低下することも分かった。ビタミンB6は白米をはじめ、魚、ナッツ、穀類などに含まれている。これらを積極的に摂ることが、大腸がんの予防につながる可能性があるという。

同じように、カルシウムも、大腸がんのリスクを低下させることが分かった。男性では、カルシウム摂取量が多いグループは、少ないグループに比べて発生率が40%近く低かった。

意外なのは、健康に良いとされていても、摂りすぎると害になるものがあるということだ。

「カルシウムなどが大腸がんのリスクを下げる可能性があるといっても、サプリメントで摂れということではありません。手軽に利用できるサプリを飲みすぎてしまうと、摂取量が多すぎて、かえってリスクが上がることもあるのです。たとえば、カルシウムが、前立腺がんのリスクをやや高めるという結果も出ています。

また、食物繊維にしても、1日10gまでは大腸がんの発生率を下げますが、それ以上摂っても効果は変わらない。日本人は1日平均14g摂っていますから、特別気をつけて摂らなくても足りていることが多いのです」

食事に含まれる塩分の影響も大きい。塩分そのものは、血圧を上げるので、脳卒中や心筋梗塞など循環器疾患のリスクを高めることが知られている。

一方、塩分濃度が高い塩蔵食品(漬物、塩辛、塩蔵魚や干物、たらこなどの魚卵等)の摂取量が多いと、胃がんのリスクが高くなることが明らかになった。多く食べている人は、ほとんど食べない人に比べて、胃がんの発生率が平均1.8倍になるという。

「胃の中で食塩の濃度が高まると、粘膜がダメージを受け、炎症が起こり、発がん物質や、胃がんの発生に関与するピロリ菌の影響を受けやすくなる。ただ、これは、塩分だけではなく、塩蔵の過程で生成されるニトロソ化合物が、リスクを上げる原因になっている可能性もあります。

2010年の日本人の食事摂取基準では、1日の塩分摂取量は男性9g、女性7・5g未満となっています。人間は塩分を1g程度摂っていれば生命を維持できると言われますから、減らせば減らすほど健康にはいいのです」

豆腐や納豆など大豆製品に含まれるイソフラボンは、体によいとされている。前立腺がん(前立腺内にとどまる限局がんに限定)では、イソフラボンを摂れば摂るほど、罹患リスクが低下。特に61歳以上の男性に、この傾向がより強くみられたという。また、女性では、閉経後に限ると、イソフラボンを摂るほど、乳がんになりにくい傾向があった。

野菜や果物も、がん予防になると考えられているが、がんの種類によって、摂りすぎても効果が変わらないという結果も見られた。主ながんとの関係は次のようになっている。

●胃がん・・・ほとんど食べない人を1とすると、緑色の野菜を週1~2日食べる人で発生率が0.78。ただし、それ以上多く食べても、数字はさほど変わらない。

●肝臓がん・・・野菜の摂取量が多い人は、少ない人に比べて40%発生率が減少。特に、カロテンの摂取量が多いほどリスクが減る傾向にあった。

●食道がん・・・野菜・果物を多く摂ると、あまり摂らない人に比べ、リスクはほぼ半減。摂取量が1日当たり100g増加するとリスクは10%低下した。

肥満よりやせすぎが危ない

■肥満・運動

太っているほど不健康、運動はするに越したことはないというのが我々の常識だが、肥満や運動とがんとの関係はどうか。

肥満度を調べるには[CMI=体重(kg)÷<身長(m)>2]が使われる。男性では、CMIが21未満のやせているグループと30以上の非常に太ったグループで、がんの発生率が高くなった。さらに、CMIが19未満の最もやせている人のがん発生率は特に高かった(グラフ左)。肥満は病気の原因になると考えられがちだが、実はやせすぎの人のほうが、がんのリスクは高くなるという傾向が見られたのだ。

一方、肥満体型の男性は、大腸がんになりやすい。CMIが25~27未満の人では1.2倍、30未満で1.4倍、30以上だと1.5倍に増えるのだ。また、総コレステロール値とがん全般の発生率との関係は、あまりないという結果も出たという。

運動については、1日の平均的身体活動時間を、肉体労働やスポーツをしている時間、座っている時間、歩いたり立ったりしている時間、睡眠時間に分けて調査した。その結果、身体活動量の最大群は最小群に比べて、がんになるリスクは男性で13%、女性で16%減少することが分かった。

(グラフ右)男性の喫煙者は、飲酒量が多いほどがん全般のリスクが上がっている。(グラフ左)日本人のBMI分布において、がん全般の発生率・死亡率は、やせすぎの人のほうがリスクが高いことが分かる※国立がん研究センターのデータより抜粋

■遺伝

家族歴、いわゆる遺伝的なリスクはどうか。前立腺がん、大腸がん、乳がんは遺伝的要素が関与しており、北欧の双生児を対象とした研究からは、前立腺がん42%、大腸がん35%、乳がん27%が遺伝的要素が関与していると推計されている。津金氏らの研究では、肺がんにも家族歴が関係していることが示された。

両親・兄弟に肺がん患者がいる場合、男性で1.7倍、女性で2.7倍という結果が出たという。その傾向は、腺がんよりも扁平上皮がんでより傾向が強く見られた。

これらの研究成果を見ていくと、日常生活のあらゆることががん発病のリスクを高めかねないと、気になってしまうが、津金氏はこうアドバイスする。

「がんというのは老化現象なので、歳をとればとるほど、罹りやすい。絶対に避けることはできないけれども、ある程度、生活習慣を改善することで確率を下げることはできるということです。でも、あまり神経質になりすぎてストレスが溜まっても逆効果になってしまう可能性もある。

自分の生活習慣を見直してみて、まずはたばこをやめる、飲酒量を減らす、バランスのよい食事を心がける、毎日合計60分程度は歩いたり身体を動かしたりする、というように、できるところから始めるのが健康に長く生きるための秘訣ではないでしょうか」