調査報道は公共サービス(パブリックサービス)――。アメリカでは、調査報道を手掛けるジャーナリストは、国民に奉仕する公務員や政治家と同類と見なされることが多い。
権力を監視するのは、納税者であり有権者でもある国民だ。しかし、監視するためには、権力が何をやっているのか知る必要がある。ここで活躍するのが、公開情報を徹底分析するなどで権力の動向を調べ、公表する調査報道だ。
調査報道が利益にならない公共サービスならば、営利企業である新聞社にとって構造的に「お荷物」なのではないか? 調査報道の担い手は民間非営利団体(NPO)ではないのか?
これまで2回にわたって、南カリフォルニア・サンディエゴに本拠を置き、調査報道に特化する民間非営利団体(NPO)「ウォッチドッグ・インスティテュート(WI)」を紹介してきた。地元ニュースを専門にしながらワシントン支局を開設したり、買収ファンドから資金援助を受けたりするなど、ユニークな存在だからだ。
調査報道とNPOの将来について、創業者兼編集長のロリー・ハーンに聞いてみた。サンディエゴ州立大学(SDSU)ジャーナリズムスクール内のオフィスでインタビューに応じた彼女は、「調査報道で新聞社がもうけることは不可能。広告を取れないから」などと語った。インタビューの要旨は以下の通り。
――新興メディアの多くは自前の紙面を持たない代わりに、ウェブサイトを運営しています。一般には、ウェブサイトとしては収益安定化のために広告収入に頼らなければならず、広告収入を確保するにはページビューを増やさなければなりません。
ハーン ウェブサイトでもうけるためには、役立つ情報などを満載してページビューを増やすのが手っ取り早いです。でも、調査報道の目的は「役立つ情報を伝える」ではなく「公益に資する」です。
もちろん、できるだけ多くの人にわれわれのウェブサイトを見てほしいですが、優先順位は低いです。最優先課題は新聞社やテレビ局など既存メディアとの提携です。既存メディアとの提携をテコにして、われわれが行う調査報道の成果を世界へ広く知らせるのです。
1年前にWIが発足した時点から、サンディエゴの地元紙サンディエゴ・ユニオン・トリビューン(SDUT)と提携関係にあります。SDUTの親会社である(買収ファンドの)プラチナム・エクイティから資金援助を受ける代わりに、SDUTへ優先的に記事を提供しています。
――インターネット上では「ニュースは無料で手に入る」といった考え方が根強いです。既存メディアに対して調査報道を売るのは難しくないですか?
ハーン ネットメディアとしてピュリツァー賞を初受賞して有名になった調査報道NPO「プロパブリカ」は、大新聞など既存メディアへ記事を無料で提供しています。豊富な資金力があるからです。われわれにはまねできません。
われわれは現在、サンディエゴ唯一の地元紙であるSDUT以外のメディアとの提携拡大に力を入れています。これまでに、三大テレビネットワークの1つであるABC系列の地元テレビ局のほか、公共放送ネットワークのパブリック・ブロードキャスティング・サービス(PBS)系列の地元テレビ局へ有料で記事を提供しています。
既存メディアはわれわれのことをきちんと扱ってくれます。ABC系列であれば、番組の中で「チャンネル10」のロゴと一緒に「ウォッチドッグ・インスティテュート」のロゴを流します(「チャンネル10」は同系列地元テレビ局のチャンネル)。SDUTであれば、記事の署名の後に必ず「ウォッチドッグ・インスティテュート記者」と表示します。
徐々に提携先を拡大し、多額の寄付に頼らずとも調査報道のコストを賄えるような体制を築くのが目標です。現在はサンディエゴとインペリアル両郡のニュースを扱っていますが、ゆくゆくはロサンゼルス郡を含めた南カリフォルニア全体まで取材範囲を広げたいものです。
南カリフォルニアを地盤にして調査報道の卸売り的な役割を担いたいのです。繰り返しになりますが、ウェブサイトへのページビューを増やして広告収入を柱にしようとは考えていません。